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近宮遥の喪失―5―



 その後起きた、個人的な事件といえば。

「っ遥、!」

 ぱしん、と兄さんに頬を打たれたこと、でしょうか。
 泣きそうな表情をする兄に、高宮さんに視線を移します。高宮さんは怒っているようでした。
 何に対してかわからないほど馬鹿ではありません。記憶喪失のフリをしたことに彼らは怒っているのでしょう。

「僕たちがどれだけ心配したと思ってるんだ!!」
「……ごめんなさい」
「まぁまぁ、高遠。近宮さんも命がかかってたわけだし……」

  金田一くんがそう言いますが、兄はキッと金田一を睨みます。それにたじろいだ金田一は目線をそらしました。高宮さんは私の耳元で、「僕の説教は今度にするよ」とかなり不機嫌な顔で部屋を後にします。涼くんや明智警視、剣持警部がいない隙をついたんでしょう。
 私達を尻目に人が一人、また一人と消えていきます。堀先輩も金田一くんと出て行ってしまいました。それをみはらかっつか、兄がぎゅっと私を抱きしめます。

「一人にしない、って、約束したじゃないか」

 そう優しく頭を撫でられた瞬間でした。今まで封じていたものが溢れ出る感覚です。ポタリ、と涙が零れ落ちました。

「兄、さん」
「……」
「お兄、ちゃん」
「遥」
「こわ、か、っ、」

 口にした瞬間、体から力が抜けました。ボロボロ止まらない涙や体の震えに、兄は抱きしめる力を強くしました。

「もう、大丈夫。絶対に遥は私が守る」

 その言葉は何よりも強く感じられました。



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