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セメント・ガーデンへ行きませう




「付き合ってください」

 駅に向かう途中のことでした。いきなりの言葉に、フリーズしてしまったのは仕方がないと思います。もしかして、誰かの告白の邪魔をしたのでしょうか。曲がり角曲がった瞬間のそれですし、ありえます。なので、後ろを振り返りました。行き交うサラリーマンがいるだけで、動きを止める人は誰もいません。
 そして、そのまま目の前にいる生徒を見ます。彼は顔を真っ赤にして、もう一度口を開きました。

「近宮先輩、付き合ってください!!」

 どうしたものでしょうか。
 しかし、彼は知り合いでもありません。一度、お断りをしましょう。
 そう思い口を開こうとすれば、前から見知った顔が近づいてきました。彼の名前を紡ぎかけて――やめます。こうなってしまえば、利用してしまいましょう。

「やぁ、遥」

 そう告げて手を挙げた彼に、私も手を挙げます。告白をした彼は、私を見て、彼を見て、目を見開きました。

「また、一人で帰ってるのかな?」
「えぇ、まぁ、」
「彼は?」
「あぁ、えっと」

 そう言葉を濁します。彼、一葉兄さんは私を見て彼を見ました。

「遥になにかようかな?」
「あ、えっと、」
「ごめんなさい、こういうことなので」

 そう言って、高宮さんの手に手を絡めます。彼は目を見開いて、駆けていきます。申し訳ないことをした気分です、とても。

「――遥に告白、かな?」

 首を傾げた高宮さんに、はい、と答えます。これで暫くはこういうことはなくなるでしょう。

「じゃあ、遥。このままデートしようか」

 疑問符がない質問です。彼の中ではもう決定事項なのでしょう。今日は遙一兄さんは夜のショーだったはずですし、帰りは遅くなるといっていました。ならば、少しくらいの夜遊びもいいでしょう。そう思い、頷きます。
 彼はそっと笑んで私の手を取ると、雑踏に足を踏み出します。

 ――それにしても。

「最近見かけなくなったと思ったんですが」
「ああ、ちょっと死神君と追いかけっこをね」

 そうすらりと告げた彼に、首をかしげます。
 死神君、とは、金田一兄弟のことでしょうか。それとも、その単語の後にマジシャンとつく方でしょうか。まぁ、どちらにせよ関わらない方が得でしょう。彼もそれ以上言う気がなさそうです。
 彼は飄々と周りの景色を見ながら堂々歩きます。その様子に彼が指名手配犯だと思う人間は少ないはずです。

「どうかした?」
「いえ、一葉兄さんは変装をしないな、と」
「堂々と歩いていればバレないものだから。『似てる人』で済むし、逃げ切れる自信もあれば、捕まってもそこから脱出する手立てはある」

 その言葉に苦笑いすると、彼は私を見下ろし、立ち止まります。私もそれに続いて止まりました。

「……行き先を変更するよ」
「何処へ行くかはわからないので、ついていきますよ」

 そう告げた彼は路地を曲がります。彼が立ち止まった先には人だかりがありました。パトカーの音からして、事故か事件が起こったのでしょう。目の前の集団は野次馬というやつです。それにしても。

「疫病神が戻ってきた気が」
「ああ、ちゃんとお祓いにいったようだ。よかったよ」

 そう笑いながら告げた彼に私も笑っておきます。お祓いにいく途中で例の如く事件に巻き込まれたのは黙っておきましょうか。



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