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セメント・ガーデン、ただし



 さてさて、一葉兄さんに連れてこられたのは何処ぞの高そうなレストランです。私は制服ですが……まぁ、制服も一応『フォーマルな服』ですし、いいのでしょう。その点、一葉兄さんはモノクロの服を好むが為にこういう場所にも出入りの自由が聞きそうです。
 ……店員にはどういう関係だと思われているんでしょうか。
 しかし、他の客が沢山いるため、おそらくはなんとも思われていないでしょう。
 とりあえず、向かい合う席に通されて彼はワイン、私はノンアルコールのワインがグラスに注がれました。

「で、何かご用でしたか? 一葉兄さん」
「遥に説教しようと思って」

 そう笑いながら告げた一葉兄さんに目線を逸らします。周りに説教され、落ち着いたと思ったのですが。そういえば、高宮さんこと、一葉兄さんが残っていました。窓のガラスに彼が映っているのでそちらを眺めることにしましょう。

「賢い選択だよ、確かに君がああしていれば普通犯人は君に手出しをしない。でも、それは『普通』の場合だ」
「……はい」
「今回の遥は、犯人にとってのキーパーソンだった。それが役に立たなければ犯人に殺される可能性も捨てきれない」
「……」
「遥が死んだら、僕は喜んで犯人を殺すよ。もちろん、あの様子を見ると遙一だってそうだ。彼は狂気を孕んでいるが、隠す術を持っている。でも、君が死ねばそのリミッターは外れるだろう。それもそれで、おもしろいが――」

 そこで、一葉兄さんは私と同じくガラスではなく、私を見ます。私は彼を見ないままです。

「――元から外れてしまっている僕はどうなるだろうね」

 そう告げた彼の――窓ガラスに映る彼は素晴らしい笑顔でした。彼は言葉を続けます。

「僕は一度、君が死にかけたところを見たが、その時は兄妹じゃなかった。でも、真相を探ろうと思うぐらいには君を気にかけていた。で、だ。兄妹になったと思ったらまたソレだ。困ったものだよ、僕からすれば。他人に心を掻き乱されるのは、あまり好きじゃない」

 そう告げた彼に、私は窓ガラスから目を離し、彼を見ます。同じく微笑みをもって。

「ならば、私を殺しますか? 掻き乱されることはなくなりますよ」
「それもいい。君を美しく飾り付けるのは楽しそうだ、でも、遙一と死神と三つ巴は面倒だ。この答えは簡単な話だよ。遥が事件と関わらなければいい」

 一葉兄さんはまた笑みを浮かべました。少し、寂しそうな悲しそうな笑みを。

「そう、事件の元凶を作る僕と会わなければいい」

 そう告げた彼に私は動きを止めます。
 彼の笑みには自嘲的なそれも含まれているのでしょう。でも、掴ませようとしない彼はくしゃり、と頭を撫でました。

「さよならを言おうと思って、今日はデートに」

 そのまま頬に彼の手がのび、いつかのようにそのまま引き寄せられました。
 彼の顔が近づいてきたので目を瞑ります。

 すると、ダン!という音が聞こえました。
 目を開けて横を見ると、青筋を立てた遙一兄さんや、野崎くんと顔を真っ赤にした千代ちゃんがいました。それを見て、彼はニヤリと笑います。

「遙一との賭けは僕の勝ちだ」
「……は?」

 ――賭け、とは。
 ついていかない私の頭を置いて、遙一兄さんが口を開きます。

「本当にそのまま貴方はいなくなってもいいんですよ? 遥を離しなさい」
「半分は本気だったけど、遥の反応を見てやめたよ。それに、それとこれとは別問題だ」

 答えにならない二人に、野崎くんと千代ちゃんに目を移します。野崎くんの目が輝いているのは気のせいではありません。

「どういう、こと、ですか?」
「社会人と女子高生の年の差の話をかくことになった」
「はぁ」
「で、ネタが浮かばないから、たまたま見かけた高遠さんと遠山さんに頼んだ」
 それに、遠山さんが乗って高遠さんが近宮が乗るか否かで賭けてたな。

 野崎くんの言葉に頭を抱えます。遙一兄さんの視線が痛い。

「遥も遥ですよ、なに雰囲気に流されてるんですか。相手は父親が違うとは言え兄ですよ」
「だって、二度目の流れなんですもん!」

 そう言って負けじと遙一兄さんを見上げます。遙一兄さんは眉間にしわを寄せました。

「……二度目?」
「遥のファーストキスは僕がもらったから」

 そうすらりと告げた一葉兄さんに、遙一兄さんが無言で一葉兄さんを見ました。その顔にはあからさまに怒りが含まれています。

「一葉?」
「嫉妬かな?」
「……ああ、三人はここでごゆっくりデザートでも食べてください。私は、一葉と、大事な、話が、ありますので」

 そう私たちにキラキラとした笑顔を見せた遙一兄さんに私は顔を覆います。一葉兄さんは「僕はこれから用事があるから、遙一の会話には付き合えないかな。じゃあ、また。遥をよろしくね?」と伝票を持って立ち上がりました。遙一兄はそれを無言で追いかけます。
 とりあえず野崎くんと千代さんに席を進めます。しばらくしてデザートが三人分運ばれてきました。おそらく、一葉兄さんが頼んでくれたのでしょう。
 そのままデザートを資料にするための写真撮影会が始まり、一通り満足した頃に三人でデザートを食べます。

「なんで一葉兄さんなんですか、なんでですか。明智警視とか遙一兄さんとかいたでしょう」
「高遠さんは実のお兄さんで、遠山さんは遠い親戚でしょ?」
「……ああ、そうなってるんですね」
「……でも、近宮のファーストキスって、確か」
「え、あ、えぇ!?」

 呟いた野崎くんに千代さんが私を二度見しました。気づいたのでしょう。小さくため息をつきます。

「ええええ!?!?」
「千代さん、あーん」

 そう言って千代さんの口元にデザートを運びます。食べた彼女に、笑みを浮かべました。

「まぁ、そういうことですので、内密にお願いします」
「まぁ、ネタにはなるか」
「野崎くん、そういう問題!?」

 そういう問題ではありませんが、そういう問題で済ましてくれる彼は素晴らしく心が広い気がします。



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