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三賢者なんで大層な方ではありません



 テレビ会社に入ると、控え室に通されます。プロである兄も一緒に入ってきたのは、彼が私の付添人だからです。そもそも兄は仮面をつけ他状態でマジシャンとして活動をしています。なので、素顔の彼をマジシャンだと認識する人は殆どいません。
 控え室で私が色々と準備をする隣で、兄は机の上に置かれた冊子を読んでいます。出演者などが書かれた資料のようです。

「おや」

 兄がそんな声を上げた為、彼を見ます。眉間に皺を寄せた兄に、どうかしましたか? と声をかけました。

「いえ、私の素顔を知る人が一人」

 そう苦々しく呟いた彼に首を傾げます。兄のそばに寄って資料を覗き込めば、そこには共演・審査として招かれたマジシャンの方が三人いました。
 若手と有名どころの中堅さんが二人、という感じでしょうか。もしかしたら、彼らはもう大御所となっているかもしれません。
 一人目は若手マジシャンのスクワード。兄と年は変わりませんが、最近売れっ子のマジシャンでテレビでよく拝見します。
 次いでアジア中心で活動しているマジシャンの花森和佐。確か切断や浮遊マジックが得意でした。彼とは何度かあったことがありますが、私としては苦手な方です。私をよく親の七光り呼ばわりしてきました。否定はできませんが。
 そして最後に女性マジシャンの蘭堂カンナ。脱出系マジックを中心に、水や炎などを扱った華やかなマジックをする方です。
 顔を顰めた私に、今度は兄が首を傾げました。

「遥?」
「いえ、花森さんが少し苦手なので」
「ああ、彼は僕も嫌いですよ。大したことがないマジシャンなのに上から目線だ」
「では、知り合いは彼ですか?」
「いいや、彼の前ではマスクを外していません。……――蘭堂さんですよ」
 不意打ちでマスクを外されてしまったんです。

 一瞬、恋愛関係かと思いましたが違うみたいです。兄は相手に興味なさそうでした。……時々兄の今後が気になりますが、まぁ、私も人のことを言えないので黙っておきましょう。
 しかし、少し気をつけておきましょうか。兄と知り合いならば、こちらに何かしら動きはあるかもしれません。
 そんなことを考えていると、ノック音がします。はい、と返事をすれば扉が開きました。一人の男性が入ってきます。年齢は30代というところでしょうか。

「近宮遥ちゃん?」

 そう首を傾げた男性に少し既視感を覚えます。霧島云々ではありません。霧島云々というよりかは、母繋がりの方でしょうか。

「はい、近宮遥です」
「ああ! やっぱり! きみが無事でよかったよ!」

 そう笑いながらやってきた彼はペタペタと私に触ります。はっきり言って不快ですが、ニコリと笑ってごまかしておきます。私の表情を見て何かを汲み取った兄が彼と私を引き離しました。

「失礼ですが、貴方は?」
「おっと、悪い悪い! 俺は山ノ内浩介! 今回のプロデューサーだよ!」

 そうニコニコと笑った彼――山ノ内さんに思考を巡らせます。山ノ内浩介、確か、母の知人だったはずです。聞いた話では、母の年上の友人の息子でした。ちょくちょく挨拶に来ていた覚えがあります。母が気にかけていた様子も。

「遥、知り合いですか?」
「母の友人の息子さん、であっていますか?」
「あってるあってる! いやぁ、君とまた会えて嬉しいよ!! 隣の彼は?」
「ああ、兄です」
「本当かい!? 隠し子か!」
「私は隠し子ではありませんよ、育ての親が違っただけで」

 少し怪訝そうに告げた兄に、山ノ内さんは首を傾げますが、彼は知らなくてもいいことでしょう。

「で、山ノ内さんがどうしてここに?」
「リハーサルできるよって言いたくてね! 本来ならADが呼びに行くんだが、君とは是非話したくて! あ、あと、君はリハーサルの後にみんな顔合わせになるよ。お兄さんも来るかい?」
「どうしますか?」

 そう兄を見上げます。顔合わせに兄の知り合いがいるならば、行かないでもいい気はしますが。

「行きますよ、遥一人では心配ですから」

 すこし山ノ内さんに目を細めながら告げた兄に、山ノ内さんは引きつった笑みを浮かべました。私は見て見ぬ振りです。


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