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呪いをかけられた魔法使い




 控え室を後にし、山ノ内さんのいる部屋へ向かいます。
 ――そういえば、です。今までどうして花森さん達のあの嫌な視線を掻い潜ってこれたのでしょうか。やはり、母親が近くにいたからなにも思わなかったのでしょうか。
 だめですね、頭がどんどん暗い話に進んでいきます。頭を振って、山ノ内さんのいる部屋の扉の前に立ちました。彼の話とはなんでしょうか。
 ノックを数回します。しかし、返事はありません。別の場所に行ったのでしょういか。いえ、それはないでしょう。私の部屋からここまでは殆ど一本道です。階段が途中でありますが、上は屋上へ、下は改装工事中で立ち入りができないはずです。首を傾げて、もう一度ノックをします。やはり、返事はありません。困りました。嫌な予感がします。少しだけ、開けましょう。
 扉を開けると、カチャリという音とともに扉が開きます。隙間から中を覗けば――。

「――山ノ内さん!?」

 山ノ内さんが床に倒れていました。慌てて扉を開けて、彼に近寄ります。頭を殴打されたのでしょう。頭から出血しています。

「山ノ内さん!」

 もう一度よびかけて揺すりますが、彼はビクともしません。彼の呼吸と脈を確認します。しかし、それらはありません。すなわち、彼はもう死んでいるようです。
 しかし、血はまだ完璧には乾いてません。おそらく死んだのはついさっきでしょう。周りを見れば、殴打する際に使われたであろう花瓶がありました。扉は二つありますが、出入りできる扉は私の入ってきた扉のみ。もう一つは向かい合った先にあります。しかし、その前にはマジックで使うためなのかドラマなどで使うのかわかりませんが、ガラスのコップのタワー――所謂グラスタワーがありました。奥の扉にピッタリとくっついたそれはまず動かせないでしょう。

「これは、」

 大変なことになりました。私がそう考えるのと、後ろから叫び声が聞こえるのはほぼ同時でした。叫び声をあげたのは蘭堂さんです。

「人殺し!」
「違います、私が来た時には彼はもう――」
「こないで! 誰か! 誰か!!」

 そう喚いた彼女に舌打ちをしたくなります。誰か話が通じる人が欲しいですが、これは圧倒的に不利です。犯行現場は明らかに密室で、その中には私しかいないのだから。
 ドタバタと集まってきた人達――スタッフや出演者達は私を見て死体を見て目を見開きます。兄も来て、遊さんや堀先輩、野崎くんや千代さん、御子柴くんも来て顔を真っ青にしました。

「違います、」
「はっ! 人殺しにまで成り下がったか!」
「違います、私が来た時には、もう、」
「誰もこっちに来なかったわ! すれ違ってないわよ!」
「違うんです、」
「部屋も完璧な密室じゃないか……」
「人殺し!」
「……ちがう、」

 兄を見ます。兄は目を見開いて、ただただ固まっているだけです。それは兄だけではありません。先輩達もです。その様子に、ポロリ、と涙が溢れます。泣きたいわけではありません。ただ、彼らがそういう視線で私を見たことがショックでした。

「私は、なにも、してません。信じてください」
「信じられるわけがないだろう! 警察を呼べ!! あいつを取り押さえろ!」

 そう喚いた花森さんに、兄を見ます。眉尻を下げた兄は目をつむりました。あの男性スタッフさんが私を取り押さえます。床にねじ伏せられ、周りが騒がしくなっていきます。

「――遥、」

 不意に、聞き慣れた声がしました。声の出所を探しますが、その人は何処にもいません。

「遥、とりあえずここは逃げようか。大丈夫だ、僕がついてる」

 耳元で聞こえた声にその声の出処を見ます。あのキャップをかぶった男性スタッフが笑みを浮かべていました。

「高宮さん――?」
「おい、警察が来るまで押さえておけ!」
「警察が来たら、彼女が捕まってしまうからね、お暇させてもらうよ」

 男性スタッフはそう言うと私の目を塞ぎ、何かを地面に叩きつけました。何か、というのはわかります。おそらくそれは発光弾でしょう。見えなくなる視界に、私の体が浮き上がりました。そして、そのまま浮遊感がします。誰かを押しのける感覚、窓を開けた音。そして、なんともいえない強い浮遊感が襲ってきます。

「遥!」
「遥!?」
「近宮!!」

 兄の声、遊さんの声、堀先輩の声が遠のいていきます。そのままどこかに着地した彼は、もう一度近くに飛び移り、地面に降りました。そして、車の後部座席に私を詰め込みます。

「近宮!」
「ああ、やっぱり一人は来たか」

 そう呟いた彼は笑って声の主を見ました。彼と同じように地面に降りてきたのは堀先輩です。男性スタッフはそのまま彼に助手席に乗るように告げて運転席に乗り込みました。

「乗っても、乗らなくてもいい。時間がないからね」

 運転席からそう告げた男性に、堀先輩は助手席に乗り込みます。動き出した車、運転席に座った男性は自分の顔に手をかけました。小さくマスクが破れる音がします。バックミラーに映ったのは、紛れもなく高宮さんでした。



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