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クローゼットの奥には




 ピンチの時は右から二つ目のクローゼットに入れ、とは高宮さんの言葉ですが、いま、これをピンチと言わずになんと呼べばいいでしょうか。
 ドンドンと叩かれる扉に、堀先輩と顔を見合わせます。ボーイさんが必死に止める声と物音、警察の方の声が聞こえます。とりあえず、先ほどの紙と携帯電話を持ち、堀先輩を見ます。

「いきましょうか、堀先輩」
「行くって言ってもな、最上階だぞ」
「高宮さんが入れと言っていたクローゼットに何かあるかもしれません」

 そう言ってクローゼットを開けます。そこには服がずらっと並んでいますね。男物です。
 ……全て高宮さんのサイズなのを見ると、ここは彼の隠れ家でしょうか。

「唯のクローゼットじゃねぇか」
「いえ、これは、」

 服を数着借り、堀先輩に渡します。そして彼の手を引き、クローゼットの奥を押しました。するとくるりと動いたそこ。隠し扉のようです。二人で隠し扉を通り抜ければ別の部屋に来ました。その際、クローゼットを閉じるのも忘れていません。とりあえず、鍵がかけられるようなので鍵をかけてしまいましょう。

「隠し部屋か?」
「こっちの扉から外に出れるみたいです、が、ちょっと着替えます」
「はっ?!」
「このままの姿で外に出ても捕まりますからね」

 そう告げて服に手をかければ慌てて堀先輩がそっぽを向きました。……遊さんは気にしないというのに不思議な人です。
 タオルを使って胸を押しつぶし、高宮さんの服を着ます。大きいですが、うでまくりしてしまえば、そういうファッションに見えるでしょう。着替え終わりました、と堀先輩にいえば、彼は目を瞬き、周りを見渡します。そして、部屋に置いてあったワックスを手につけると私の髪をいじりました。

「近宮、低い声」
「あー……」
「もうちょっと。この前に怪盗の役やった時ぐらいの」
「あー、これくらいですか?」
「あと、伊達眼鏡」
「はい」

 堀先輩に促されるまま伊達眼鏡をつけます。……うん? これは、遙一兄さんが持っていたものに似てますね。

「口調変えるぞ。普段敬語だから、敬語はなしだ。設定は同い年にするか?」
「なら、堀ちゃんと呼ぼうかな」
「雰囲気まだ被るな、もっと弱々しい感じ」
「ほ、堀ちゃんって呼んだらいいかな……?」

 私の様子を見た先輩が満足げに頷きます。うーん、あのマネージャーの気分です。

「ああ、でも、俺も近宮から変えないといけないんだよな」
「どうせなら、赤尾でいいよ、堀ちゃん」
「おー、それで行くか」
「じゃあ、いこう? 堀ちゃん」

 堀先輩の手を引いてエレベーターにはいります。ノンストップで降りた先は地下のようです。そのまま通路に沿って進めばホテルから離れた場所にでます。やはり、あそこは高宮さんの隠れ家でしょう。と、いうことは、高宮さんのセリフからして……オーナーは復讐を遂げたんですね、おめでとうございます。
 さて、これからどうしようか、と思っていれば私の電話と堀先輩の電話が鳴りました。二人で顔を見合わせます。堀先輩は遊さん、私は遙一兄さんです。

「もしもし?」
「遥、無事ですか?」
「ええ、なんとか」
「このテレビ局から半径5キロあたりまで非常線が引かれているそうなので気をつけてください」
「ああ、だから警察が……むしろ、非常線の中にいた方が安全ですかね」
「おそらくは。こちらはこちらであなたはまだテレビ局内にいることになってますよ」

 そう言った遙一兄さんに、ならば非常線の中で少し時間を稼いでからそちらに戻ります、と言っておく。

「ええ、そうしてください。……遥」
「はい、なんでしょうか?」
「……いえ、なんでも。またあとで」

 そう切れた電話に苦笑いします。なんとも歯切れが悪い電話でした。堀先輩も電話が終わったようです

「堀ちゃんは誰からだったの?」
「鹿島。安否確認の電話だったから、ついでにグラスタワー調べとけって言っておいた」
 あいつ頭いいし、なんかわかるだろ。

 堀先輩の言葉に頷きます。まぁ、遊さんは頭がいいですし、三人寄ればなんとやらとも言いますから。

「これからどうするんだ?」
「時間を潰してテレビ局に向かいます」
「は?」
「そっちの方が恐らく安全なんだよ、堀ちゃん……誰が明智警視と犯人疑いがかかった人が一緒にいると思う?」

 そう態とらしく首を傾げてみます。堀先輩は「ああ、なるほどな、」と頷きました。

「……それにしても、堀ちゃんは疑わないんだね」
「だって、近宮ならもっとうまくやるだろ」

 ……それはどういう意味でしょうか。というか、堀先輩の中の私のイメージとは。



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