94
そして彼も巻き込まれる
「――もしもし?」
そう電話を取ったのは高宮である。前髪をあげて伊達眼鏡をかけた彼は車の中で何かの資料をめくっていた。
「ああ、遙一か。遥? 遥なら堀くんと一緒だよ。あとで会うつもりだよ」
高宮は資料をとん、と、音を立てて整理する。そして、また口を開く。
「やっぱり、あの中に『死神』が紛れているようだ、遙一」
――一方、その頃、である。
近宮と堀は繁華街の喫茶店の奥にある席に座っていた。非常線は確かに張られているが、監視の目は中から外だけであり、外、もしくは外から中には監視の目は向いていない。まぁこれは『殺人犯の逃亡』だからだろうと近宮は思っている。
「それにしても、ほんっと演技力高いな、お前」
そう呟くように告げた堀に近宮はふにゃりと笑う。
「気のせいじゃないかなぁ、堀ちゃん」
「前の記憶喪失の時も演技だろ?」
「だからってそんな役はやりたくないよ……?」
「いけると思ったんだけどな」
そんな会話の中、誰かが振り絞るように口を開く。
「なんで俺も巻き込まれてんだ……!」
「そこに火祀が声をかけてきたから」
「そこに火祀先輩がいたから」
そんな二人の言葉に、その誰か――火祀純が項垂れた。
時間は10分ほど前に遡る。繁華街を歩いていた近宮と堀。そんな二人に火祀が声をかけたのがはじまりだろう。
「近宮と堀? 何してんだ、こんなとこで」
その言葉に、堀と近宮は素早い反応をした。堀が戯れるように火祀の口を塞ぎ、近宮が火祀の腕をとるとそのまま歩き出し――喫茶店に入ったのだ。その様はどう見ても男子高校生が戯れる姿だろう。
目の前に運ばれてきたコーヒーに、近宮はウェイトレスに軽くはにかんで会釈をする。ウェイトレスは少し顔を赤くして奥へと入った。
「でも、なんで近――」
「やだなぁ、火祀くん。僕は赤尾ですよ、間違えないでよね」
そう眉尻を下げた近宮に、火祀はけほけほと噎せた。
「おま、っ、」
「火祀こそ何してんだ?」
「あー、ちょっと」
今度は目を泳がせる火祀に、カウンター近くを見た近宮は「そういうことかぁ」と告げる。
「どういうことだよ」
「堀ちゃん、見てみて! あそこにある写真! 火祀くんって、マジック好きだから、会いたかったんじゃない?」
近宮は首を傾げてカウンター近くを指差した近宮に、堀はそちらを見る。そこにはサインが飾られている。が、誰のサインかはわからない。
「誰のだ?」
「んーと、よく見えないなぁ。店員さんに聞いてみよう〜」
「嘘だろ、お前見えてるだろ。さっきの反応からして」
火祀の言葉に近宮は火祀の足を踏んだ。テメェ! と喚きかけたが、先ほどのウェイトレスがやってきただけ火祀は止まった。
「いかがされましたか?」
「すいません、あのサインは誰のものですか?」
「あちらですか? マジシャンの花森さんとスクワードさんという方のものですよ」
「お二人ともテレビで見る有名な方だ!……ん? 確か、今日はテレビ局でマジック甲子園云々するって吉岡ちゃんが言ってた気がする……二人に会えるかな?」
「残念だけれど、スクワードさんは開店してすぐに来てスタジオに向かわれたわ」
「じゃあ、花森さんは?」
「花森さんはいつもマネージャーさんかプロデューサーさんが豆を買いにきてるのよ。だからこないと思うわ」
「そっかぁ……ありがとうございます」
そう近宮が残念そうにつげると、ウェイトレスは「ごめんなさいね」と告げてまた奥へ向かった。
「ですって、火祀先輩。残念でしたね、会えませんよ」
「なんだ? 火祀、マジシャンに会いたかったのか?」
堀の言葉に火祀は不貞腐れたように「悪いかよ」と告げた。
「というか、マジでお前ら何してんだよ。そろそろ近……赤尾は収録時間だろ?」
「あー、いや、ちょっとな」
「殺人事件に巻き込まれ容疑者になっているので逃亡中です」
そうさらりといつもの声で告げた近宮に、火祀は近宮を見る。
「お前、ついにか」
「ついにってなんですか。皆さんなんでそんな認識なんですかね」
そう返した近宮に、堀の携帯電話が音を立てたのはすぐだった。
PREV BACK NEXT