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人魚姫は泡になる
それは、収録中に起こった。得意の脱出マジックを披露するはずだった蘭堂が死んだのは。
カメラが回る最中、電話ボックスのような水槽の中で彼女は手錠が外れずに溺れた。慌てたスタッフや周りに、すぐに動いたのは現役マジシャンでもある高遠と明智だが、電話ボックスのような水槽はピクリともしない。なんとか開けたものの、時は遅く、彼女は溺死した。
「近宮さんがやったのかな……」
そう恐れたように口にしたのはスクワードである。それを聞いて、花森が「そうに違いない!」と叫ぶ。高遠は何も返さず、ただ手袋をはめて花森の遺体にはまっている手錠を見た。
「――細工されてますね。本当なら外れるようになっているものが、キチンとはまるようになっている」
「近宮が細工したに違いない! あいつはまだ中を彷徨いているんだろう! さっさと逮捕したらどうなんだ! 警察は!」
そのことばに、高遠は無表情で遺体を見る。握り締められている手が震えていることに気づいたのは、眉間に皺を寄せた明智だけだ。
――高遠は間違いなく怒っている。
しかし、彼がなにか言う前に声が響いた。
「遥はそんなことしない!」
そう花森に向かって吠えたのは鹿島である。
「遥はマジックが好きだから、こんなマジックを使った方法で人を殺しません!」
「でも、僕は見たんだ、蘭堂さんと近宮さんが言い争っているのを」
まだ顔が青いスクワード。そして、高校生の千葉も同意する。高校生達はまだ顔が青い。
「俺も見ました」
「詳しい話は後で伺いましょう。皆さん、控え室へ」
明智はそう言って全員を促す。浪漫学園の五人を見て、「あなた達も一度近宮さんの控え室で休んでください」と告げる。
「高遠、貴方には捜査を手伝っていただきますよ」
「ええ、わかっていますよ、明智警視」
高遠はそう答えてもう一度マジックのセットを見た。
部屋に着くと、鹿島は直ぐに堀に電話を入れる。オープンボイスに設定された携帯電話、数コール後に電話が繋がったのか、もしもし? という堀の声がする。
「もしもし!? 堀先輩!? 今も遥といますよね!?」
「うるさいぞ、鹿島。まだいるよ、今からそっちに向かう。火祀付きで」
「今どこにいるんですか!? 堀先輩!」
「今? 今、繁華街の喫茶店をでたとこだよ」
堀の返答に、四人が力が抜けた。こっちは心配したというのに!
「なんかあったのか?」
堀の質問に、野崎が答える。
「蘭堂さんが亡くなりました」
「は?」
「高遠さん曰くマジックのセットに細工されていたとか……で、近宮にまた疑いが向きました」
淡々と告げた野崎に、堀はしばらく黙って、そして受話器を遠ざけたらしい。
「ちか……赤尾、蘭堂さんが殺されたらしい」
「は?」
そう受話器から少し遠い場所答えたのは間違いなく近宮だろう。
「直ぐ行きましょう、堀くん、火祀くん」
「あぁ、」
「おい、だから、俺を巻き込むな――」
「今からそっちに行くから」
その言葉とともに堀によって一方的に切れた電話。鹿島はゆっくりと息を吐く。
「よかったー、やっぱ遥じゃないんじゃん」
「ねー、びっくりしたよ!」
「いや、でも、これ、ヤバくないか?」
そう口を開いた御子柴に、野崎は「ああ、ヤバイな」と同意した。それを聞いた佐倉が首を傾げる。
「え? 野崎くん、ヤバイって何が?」
「俺たちは蘭堂さんが山ノ内さん殺害の犯人だと思っていて、なおかつ、あのガラスタワーを動かせればオッケーだと思ってただろう?」
「あ……」
「しかも、花森って奴、あの現場に行く時、ずっと俺たちの目の前にいたか気がする」
「ああっ!! 本当だ!!」
そう叫んだ佐倉と鹿島に、野崎が呟く。
「捜査は振り出しに戻るとはこういうことか」
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