
エクシード ワールド-1-
レオナルドはその部屋に訪れるのが好きだった。その部屋には窓はなく外界とは隔離されているに近いのだが、そこにあるものはどこか映画の中の世界を思い起こさせるからだ。
今日もやることが無いため、その部屋の一角、回転椅子に座っているレオナルドはその部屋でせわしなく動く少女――正しく言えばオトハは20歳になる『女性』だがアジアの不思議で少女に見える――と、その横で助手をつとめている半魚人――ツェッドを見る。ホログラムで映しだされた画面には、何かの設計図や論文が展開されていて、その傍らにはアイアンマンマーク43――この前ザップが中にはいって一騒動起こしたのは別の話だが――が横たえた状態でおいてある。
――オトハが落ちてきたから、三日たった。
その三日間の殆どの時間をオトハはラボとよんでいるこの部屋で過ごしている。何時寝てるの、という周りの声に、「普段から割りとこうだから」とオトハが答えたのは記憶に新しい。そんなオトハを周りはなんやかんやと気にかけているが、一番気にかけているのはあのクラウスではなく、コウキである。
コウキという人間は、とても不思議な人だとレオナルドは思っている。ザップとツェッドの兄弟子であるが、血の属性は炎でも風でもなく雷である。ただ、戦い方は師匠が同じなだけあって刀や槍を作り出すというそれであり、かなり酷似していた。それに加え、常識人であるし賢いし面倒見もいい。
レオナルドは兄はいないが、きっと自分に兄がいればこんなかんじだろう、とは思っている。欠点といえば、熱中すれば周りが見えなくなることと、ファッションが独特なところだろうか。
「オトハちゃーん? こもりっきりはよくないから、めしいこうぜー?」
「サブウェイかドーナッツでお願いします」
「またそれか。俺は出前じゃないっての」
そう言って顔を出したのは例のコウキだ。肩まである黒髪を雑に後ろでくくり、ダテメガネ――本人曰く「アラレちゃんメガネ」をかけている。今日のファッションも独特で、くすんだ色の水玉のロングコートに無地の白Tシャツ、そしてジーンズ――膝のところには黄色い布があてがわれている――を履いていた。
「いっつも思うけど、色んな意味でどこのパリコレモデルかと思うよね、コウキさんの服装。なんというか、独特のファッションセンス」
オトハが作業をしながらそう告げる。ツェッドとレオナルドが「たしかに」と頷けば、コウキは「お前らそれって褒めてんの?」と首を傾げた。
「私は他人のファッションには口出しできないからノーコメントで」
「え? オトハさんはセンス良さそうですけどね。その服も」
「おいツェッド。お前さり気なく俺を貶したな。最近ザップに似てきたぞお前」
「ザップさん云々は否定しますが、貴方の服装を褒めるけなすに関してはノーコメントで」
ツェッドが画面を見つめながら答える。
「この服は見かねた上司たちがかってくれたんだよね。普段はルームウェアに白衣とスリッパで生きてる」
「それは……オトハさんって、結構、私生活では残念な人なんですね」
「そういうストレートな物言いをするツェッドくん、結構好き。普段皮肉ばっか聞いてるからすごい新鮮」
オトハの言葉に、ツェッドが微妙な表情をする。
「めしいこうぜー? なー?」
「私はお気にせず、皆さんでどうぞ」
「よし、ツェッド、レオナルド、強制連行するぞ。こんなところにこもりっぱなし良くない」
コウキの言葉に、ヤレヤレとツェッドが息を吐く。画面に熱中するオトハの腕を取ると、「もうちょっと!」と騒ぐオトハをズルズルと引きずってきた。
「オトハのもうちょっとって、次の日のことじゃん」
「本当にもう少しだってば!」
「と、いいつつ、昨日は一段落ついたのは夜中でしたよね?」
「おいおい、マジで体の毒。ちゃんと休まなきゃ、体が持たねーぞ。レオナルド、ザップを誘ってこい。チェインでも可」
そう告げたコウキもオトハの腕を掴み、オトハの現状はさらわれた宇宙人状態である。本人も不服そうな顔だ。レオナルドは「はーい」とだけ返事をしてその場を後にした。
本来、コウキという人間は面倒見は良いのだが何処か他人と一線を置きたがる人間だ。しかし、オトハには違うようにみえる。普段の昼食だってコチラが誘わなければ、一人でふらりと食べに行くのに、だ。
「ザップさーん、昼飯行きましょ。あ、チェインさんもどうっすか? オトハも来ますよ」
床に寝転がって切れているザップと、そんなザップを踏んづけた状態のチェインを見てレオナルドが声をかける。それを聞いたスティーブンが飲んでいたコーヒーを置いた。
「珍しいな、オトハも外にでるのか」
「こもりっきりは良くないって、コウキさんが。ツェッドさんと二人で確保してますよ」
「なーんか、アニさんってアイツの事気にかけますよね」
起き上がったザップが口を開けば、「やっぱ、そうですよね」とレオナルドが答える。
「レオナルドー、ザップー、チェインー、飯行くぞー」
噂をすればなんとやらである。もはや抵抗する気をなくしたオトハを引きずって現れたコウキとツェッドに視線がむく。その瞬間、オトハが何かを思いついたように手を叩いた。
「あ。そうだ。話そう話そうと思ってたんですけど、スティーブンさん」
「ハイ、禁止。オトハちゃん、その手には乗らない。どうせ今まで言うの忘れてた技術をスティーヴィーに見せていかない口実つくろうとしたんだろうけど、それは帰ってからにしなさい。じゃあなー、先いってるぜ」
そう言ってまたコウキはオトハを引きずっていく。それを見て全員が苦笑いを浮かべた。