
エクシード ワールド-6-
「つまり、オトハが研究していたワープ装置がタワーから落下する際に起動してオトハは平行世界の何処かに落とされたって言うことか」
そう告げたのはメガネを掛けたどこか困り顔の男性――バナー博士だ。そう、とオトハが答えると、フューリーが顔をしかめたまま画面を見る。
「そんな研究をしてるとは聞いていない」
「あー……正確に言えば、お父さんの研究を引き継いだだけだし、成功するつもりはなかったから報告してなかった。まさか異世界に飛ぶなんて思ってなかったし、なにより、完成してからでいっか、みたいな」
「それで異世界旅行とはいい趣味してるな」
「ホークアイ、冗談きついよ。趣味じゃないし、こっち治安悪い。怖い。まぁ、とりあえず、その話を置いといて。私を襲った変な存在の犯人なんだけど、こっちでいう吸血鬼らしいんだよ。ちょっと今お世話になってる人にかわるね」
そう言ってオトハは後ろにいたクラウスとスティーブンを見た。オトハの隣に並んで一礼してみせたクラウスに、フューリー達が顔をしかめるのがわかる。
「はじめまして。ライブラと言う組織のメンバーである、クラウス・V・ラインヘルツという者です」
「同じく、スティーブン・スカーフェイスです」
「えっと、補足を入れると、ライブラはこっちのS.H.I.E.L.D.みたいな組織で、世界を守ってる。その長官さんと副官さん」
「――なるほど。S.H.I.E.L.D.長官のニック・フューリーだ。で、オトハ。ミスター・クラウスとミスター・スティーブンを我々に紹介した理由は?」
「ミス・サクライを襲い、あなた方が目撃した存在についてですが、我々の世界からそちらの世界に何らかの手段で渡った存在である可能性があります」
クラウスの言葉に、フューリーが片眉を跳ね上げた。
「そちらでは次元移動が容易いのか」
「いえ」
「なら、何故そう言える?」
そう告げたフューリーに、スティーブンはこれは手強そうな人間だな、と思う。表情を何一つ変えないさまは厳格なイメージを与えた。
「ミス・サクライを襲った存在は、光化学的に捉えることができなかった。違いますか?」
「そうだ、そういうことになる。肉眼で見えて、カメラは映らない」
スタークの納得したような声を出した。
「それに、鏡に映らない」
「鏡に――」
「――確かに、あの時映っていなかった」
そう告げたのはロジャースだ。
「僕らが、エレベーターで上った時、あの男の後ろには鏡があった。でも、映っていなかった」
「――思い起こしてみれば、そうだな」
ロジャースの言葉に賛同したスタークに、スティーブンが口を開く。
「それが我々が追いかけている存在・血界の眷属――吸血鬼と呼ばれる存在です」
「だからオトハがさっき、ソーに吸血鬼がいるかなんてことを聞いたのか」
「そ。だって、神様がいるんじゃ、吸血鬼も否定出来ないでしょ?」
そう告げたオトハにフューリーは顔を曇らせる。スタークがオトハの方を見て、二人を見た。
「で、なんだ。対抗手段でも教えてくれるのか?」
「――血界の眷属は、通常の銃火器も歯が立ちません。特殊なものでないと」
「調べたところ、核兵器でも意味が無いっぽいんだよね。でも、クラウスさんたちならソレを封じることができる」
「話が見えた。お前、そのライブラとやらをコチラに連れてくる気だな?」
「だって、その手のプロがいるならその手のプロに任せるべき。ちがう?」
「ダメだ」
オトハの発言に、フューリーが首を振った。
「信用出来ない異世界人をコチラの世界によこすだと? だめだ」
「やっぱりそうなるか」
フューリーの言葉に、スティーブンが言葉を漏らす。
「だが、フューリー。プロに任せたほうがいいだろう。オトハが信用しているのを見ると、信用して良さそうだけどな」
「だが、あちらの存在がコチラにどの程度ダメージを与えるかわからない」
「――しかし、ミスター・フューリー。彼女を襲ったのが血界の眷属であった場合、大きな事件になる可能性は十分にある」
「だが、十一年の間事件など起きなかった」
「ちょっと待って」
オトハはフューリーの言葉に片眉を跳ね上げた。
「なんでフューリーが知ってるの。というか、なんで、」
「僕は教えてないぞ。恐らく、オトハの巻き込まれたあの事件が『異質な』事件だったからS.H.I.E.L.D.が動いていた。違うか?」
「――ああ、だが、コチラが調べても何もなかった」
スタークの言葉に、フューリーは答える。オトハは顔をしかめた。
「逆に、その十年の間に何かの計画が進行していたら?」
スティーブンの言葉に、「有り得る話だ」とロジャースがこぼす。
「ミスター・フューリー。血界の眷属は人間の死体を屍喰いにかえる力もある。そうなれば、街だけじゃなく世界がパニックになる」
「逆に、その吸血鬼をそちらの世界に送るのはどうだろう」
バナー博士の言葉に、オトハがポンっと手を叩いた。
「そっか、アベンジャーズで追い詰めて機械を作動させれば――」
今度はスタークが否定した。
「それは無理だ。発動するか、発動しないかの瀬戸際のものを一発で使えと? それに、光化学的なものや銃火器がきかないのなら、機械で移動ができるかどうかも怪しい。そちらから来てもらったほうが早い。どう思う? キャップ」
「僕は彼らが嘘を付いているようには見えない」
ロジャースはクラウスをまっすぐに見てそう告げた。
「イチかバチかを頼るより、確実なものを頼った方がいい。彼らがその存在をよく知っているなら、彼らを頼るべきだ」
ロジャースの言葉に、フューリーが大きくため息を付いた。こうなれば、このチームはおれないことを知っているからだ。
「分かった。但し、条件がある。その存在が現れるまで、このヘリキャリアからは出さない」
「監視つきか、まぁ、妥当だな」
「そして、全てが終われば、オトハのもつ機械をもらう」
フューリーの言葉にオトハは首を振った。
「いいや、あげない。すべてが終わったらこの機械は潰す」
「――」
「悪用する人が出てくる前に、この機械も論文も全部。それでいいでしょ?」
オトハはまっすぐとした目で言い切った。画面の向こう側も、オトハのいるライブラも無言である。無言は肯定とみなすよ、とオトハが告げると、フューリーが息を吐いた。
「その頑固さは誰に似たんだろうな」
「さぁ、スタークさんじゃない?」
「僕は頑固じゃないだろう」