ハロー ニューヨーク-1-


「本当に、大崩落が起こる前のニューヨークだ」

 そうレオナルドが大きな窓から下の景色を覗き込んで告げる。そのとなりにいたツェッドが「こんな街だったんですね、ヘムサレムズ・ロッドも」と呟く。下にはなんのこともないニューヨークの街が広がっていて、霧もなければ異界人もいない。平和な街そのものだ。

「まぁ、色んな人種が暮らしてる点は変わらないかもね。でも、平和でしょう?」

 オトハの言葉に、ツェッドは、ええ、と呟いてもう一度ニューヨークの街を見る。コウキとクラウスは無言のままニューヨークを眺めていた。


 ほんの数十分前である。
 オトハが機械を完成させたのは。あまりの嬉しさにガッツポーズを決めたオトハに、レオナルドはカメラを持って――もう普通の『ニューヨーク』を撮れる可能性などないからである――クラウスとコウキ、ツェッドと共に『ニューヨーク』へと旅立った。
 オトハがあのコンパクトのような機械を起動させると、地面に何かの青白い光と共に模様が現れ、オトハ達はHLから消えた。

 そして、たどり着いたのが今現在である。
 ヘリキャリアの中ではあるがオトハ曰く「座標がチョットずれていた」そうで、誰もいない巨大な窓だけがある部屋だった。そばにあったマーク43は「トニー様をお呼びいたします」と告げて部屋を出て行く。シュールだな、とレオナルドは思いながら下を見下ろした。

「あー、やっぱりずれていたな」

 そう言って顔を出したのはスタークとアベンジャーズ、フューリーの面々だ。レオナルドがそちらを見ると、金髪の男性二人と眼鏡をかけた男性は他とは違う光を宿しているのがわかる。でも、汚い光ではなく、むしろ綺麗な光で、特に長い金髪の男性はきれいな光を発している。

「ようこそ、ニューヨークへ」

 そう手を出したロジャースに、クラウスは同じく手を出して握手をした。

「キャップ、フューリーさん、紹介するね。こちらからクラウスさん、コウキさん、ツェッドさん、レオナルドさん」
「ライブラのクラウス・v・ラインヘルツです」

 ぺこりとお辞儀をしたクラウスに、あわせ他も合わせて名乗っていく。

「で、クラウスさん、こちらがS.H.I.E.L.D.の長官であるニック・フューリー。こっちが、アベンジャーズのリーダーのキャップ、メンバーのスタークさんとソー、ブラック・ウィドウ、ホークアイにバナー博士」

 その言葉にレオナルドは少しだけ気分が高揚する。
 アベンジャーズ、といえば、コミックの有名なヒーロー集団であるからだ。今後どうするかなど小難しい話を始めたキャップとスターク、フューリーとクラウス、コウキを置いてアスカはツェッドとレオナルドに並んだ。そこに金髪の男性――ソーが近づいてくる。

「ソー、久しぶりだー!」
「あぁ、久しいな」

 そう言ってぐりぐりとオトハの頭を撫でたソーを引っ張って、オトハはレオナルドの前に連れてくる。ソーはレオナルドを見ると目を細めた。

「その目は……人が持っていいものではあるまい」
「え?」
「人が作ったものではないだろう?」

 ソーの言葉に、レオナルドは目を瞬いた。ソーはヘムダイルの目のようだな、と呟く。

「ヘムダイル?」
「確か北欧神話に出てくる神様ですよ。虹の橋を見張ってる」
「その通りだ。――お前はまた、不思議な感覚がするな」
「半魚人だから! ソーの世界に似た人いないの?」
「いる、かもしれん。だが、あったことはない」

 首を振ったソーにツェッドはそうですか、と告げる。不意に、レオナルド、とコウキが呼んでレオナルドは肩を跳ね上げた。変な声が出た、と、思いつつ、レオナルドはそちらを見る。

「彼が?」
「ええ」
「義眼の話だよ」

 コウキの言葉に、なるほど、とレオナルドは頷いた。スタークが近づいてきて、レオナルドの目を覗きこむ。

「機械的なもの、も、混ざっていそうだが」
「ソーのアスガルドに似たものは?」
「ヘムダイルの目ぐらいだ。だが、術的なものが含まれているのを見ると、作った者は魔法に優れていたんだろう」

 ソーの言葉に、ホークアイが変な顔をした。恐らく、魔法という言葉に嫌な過去が頭をよぎったにちがいない。レオナルドはその視線に苦笑いを浮かべた。
 その瞬間だ。レオナルドの視界の端に、紅を写したのは。動きを止めたレオナルドに、オトハが首をかしげる。

「レオ、どうした?」
「今、さっき――」

 レオナルドの言葉に、オトハは窓を見た。窓の方には誰かがいる。それを認識して、オトハは顔を恐怖に染めた。

「クラウスさん! 血界の眷属です!!」
「全員伏せて!!」

 レオナルドとブラック・ウィドウがそう叫ぶのは同時だった。ソレは窓を割って現れ、割られた窓から中にあった紙の書類が飛んでいく。レオナルドはツェッドに、オトハはキャップに庇われて地面に伏せたが、すぐに動いたのはコウキである。持っていたナイフで手を切ると、血で刀を作り上げた。

「――牙狩りか」

 コウキを見てそう告げた男は、どこか面白そうに笑ったが、すぐに窓の外へと消える。

「自分から落ちたのか?」
「いいや、違う。何か他に目的があるんだ。他の場所にいる!」
「監視を――」
「無駄だ、監視カメラはきかないと学んでないのか!」
「クラウス、彼の目的は?」
「恐らく、整備室ではないかと」
「整備室?」
「そうか。人の死体から屍喰いをつくれるなら――」
「これを落とした方が早いな」

 結論を出した周りに、クラウス達はそちらへ向かう。レオナルドが顔をしかめたのがわかる。

「どうかしたんですか?レオくん」
「屍喰いが、」
「――どうしたんだ?」

 フューリーが無線に手を挙げる。ドン! という音がして、そちらをホークアイが見た。ガラスを屍喰いがドンドンと叩いている。

「おいおい、冗談だろ」
「博士、レオナルドくん、オトハはここにいるんだ! トニー、準備は!?」
「すぐできる! ジャーヴィス!」
「了解しました、サー」
「とりあえず、制御室に! クラウス、ハヤテ、ツェッド、手伝ってくれるか?」

  頷いた周りを見て、キャップは行くぞ、と先陣をとる。またナイフで手を切ったコウキは刀を作り出し、ツェッドは三叉を作り出した。

「俺が道を切り開きます。斗流桜血法、刀身の十――」

  居合切りの形をとったコウキの周りで、バチリという音がなる。そこにいたツェッドがフューリーを押して少し距離をとった。

「桜花雷爆斬」

 そう告げたコウキが、血でできた刀を振った。雷撃とともに屍喰いが切り刻まれ、道が開ける。
 「こりゃ掃除が大変そうだな」とはホークアイの言葉だ。周りからはあちらこちらから悲鳴が聞こえる。いきなり、がくん、と傾いたそれにフューリーは顔をしかめた。

「スターク!」
「わかってる!」

 そう告げてアーマーを着たスタークは外へ飛び出していく。ツェッドは彼は大丈夫なんですか? と訊ね、ブラック・ウィドウが「大丈夫よ」と告げた。


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