ハロー ニューヨーク-5-


 目の前にいる男を、オトハは睨みつけた。小太りなその男は笑いながらオトハの顔を足で蹴り上げる。小さくうめいたオトハに、男は笑った。

「あの男の娘か。良い方向に育ったものだな」

 そういってオトハの顎を掴み、舐めるように見てくる男にオトハは不快感を露わにする。抵抗したいが、白衣の男に拘束されているため動くこともままならない。あの吸血鬼はただ何をすることもなく、口に笑みを浮かべた状態でソレを見下ろしていた。

「ああ、嬉しいのか。ハミデフ。お前にとっては故郷の道が開けるものな。それに会いたいものに会えた」
「――」

 男の言葉に吸血鬼――ハミデフは何も言わない。

「あの男も、反対さえしなければ嗚呼いうことにならなかったものの」

 鼻を鳴らして、男は街を見下ろす。ニューヨークはドコモかしこもパニックになっていた。ヘリがそんな街をぐるりと周っているため、ヘリの羽音が大きく聞こえる。オトハはソレを見て眉を顰めた。報道用のヘリではない。軍事用のヘリだ。しかし、軍である様子ではない。オトハはもう一度白衣の男と小太りな男を見た。よくよく見れば、どこかで見たことがあるような顔をしている。
 どこだ、どこでだ、と思い出そうとしていると、いきなりハミデフが苦しみだした。が、あ゛と、声にならない声を出して頭を抱えるさまは、どう見てもおかしいものである。小太りな男は眉をしかめてもう一度下を見る。統率のとれていた屍喰い達が、好き勝手に動き始めていたからだ。もがいていたハミデフは、どろりとした目をオトハに向ける。オトハはソレを見て、ビクリと肩を跳ねさせた。

「――オトハ?」
「――っ、」
「――あぁ、――さがしていたんだ、――オトハ。――何故――」
「アレを打て」

 小太りな男の命令で、白衣の男がオトハから離れる。白衣の男はソレを見ると、ハミデフに何かを刺して液体を注入した。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「え、」

 また、だ。ハミデフは雄叫びを上げると、白衣の男を突き飛ばす。白衣の男はバランスをくずすとタワーの外に足を踏み出した。助けを求めるような声に、ハミデフはそれが気に食わないというように、影から何かを作り出し白衣の男に突き刺し、切り刻む。おちていったのは肉塊となったモノだ。

「う、あ、」

 オトハは小さく声を漏らした。逃げるチャンスだとはわかっているのだ。しかし、あの時の光景がフラッシュバックして動けない。ハミデフは視界にオトハを映す。

「それは殺すな、アレを落とせ」

 そう男が指さした先には、一気の飛行機があった。


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