
エスケープ フロム エマージェンシー-4-
「博士、つえー」
「博士じゃないわ、ハルクよ」
ぽつり、と呟いたコウキにブラックヴィドウが注釈を入れる。屍喰いをちぎっては投げを繰り返すそれは恐ろしいが味方であるのだから心強い。
「ぼんやりしてていいのか? お前の目的はアッチだろう」
「――そうだな」
ホークアイの言葉に、コウキが頷いてスタークタワーを見上げた。
「俺は坊っちゃんとクラウスのサポートに回ってからそっちに行く」
「私はコウキに付き添うわ」
「え?」
「貴方だけじゃ、あのタワーに入れないでしょう?」
ブラックヴィドーの言葉に、コウキはなるほど、と呟いた。確かに、セキュリティーが外せないのなら意味が無い。迫ってくる屍喰いに、コウキは顔をしかめたがホークアイがコウキの背中を押した。
「先にいけ、これくらい、どうってことない」
「でも――」
コウキの言葉を遮るように、ハルクが車を屍喰いにむかって投げ飛ばした。目を見開いたコウキにホークアイは肩をすくめる。
「ハルクもいることだしな」
その言葉に、ハルクがグルリとコウキを見下ろした。そして、ここは任せろというように頷く。それを見て、ブラック・ヴィドウが「いきましょう」とコウキにつげた。
「ああ」
そうつげて、コウキはタワーを見る。ソーが吸血鬼に押されてタワーに突っ込むのが見えた。コウキはそれを確認すると、タワーに向かって走りだす。向かってくる屍喰いに、コウキが血で刀を創りだし、切り刻んでいく。それをサポートするように、ブラック・ヴィドウが銃を撃っていった。
数分もかからないうちに辿り着いたそこに、ブラック・ヴィドウは持っていたカードを通し、エレベーターを起動させる。目指すは屋上階である。途中でガクンと止まったそれに、コウキが刀でエレベーターの扉を切り刻めば、エレベーターは階の半分が出た状態で止まっているのがわかる。なんとかふたりはその半分の隙間に体を滑り込ませると、真っ白い部屋へと降りた。どうやら真っ白い部屋はラボらしい。機材やラップトップなどが並べられている。ブラック・ヴィドウがあたりを見て、口を開いた。
「オトハのラボね」
コウキはテーブルに飾ってあった写真立てを手にとった。写真立てには三枚の写真が挟んである。スタークと女性、オトハの写っている写真。アヴェンジャーズのメンバーが写っている写真。そして――。
「コウキ、これを」
ブラックヴィドーの言葉に、コウキは写真立てをおきそちらをみる。何かの機械が稼働しているらしい。ゴウン、ゴウンという音とバチバチという音をたてながら動いている。そして、時々ちらりと見える景色にコウキはハッと息を呑んだ。
「ヘルサレムズ・ロッドが見える」
「つながってるってこと?」
「おそらくは」
コウキは持ってきていた携帯電話を見た。さっきまでは圏外だったはずなのに、電波が立っている。ということは、ヘルサレムズ・ロッドにつながっているらしい。
「やばいな――つながってる」
「少し触ってみるわ」
ブラック・ヴィドウはそう言って、近くのラップトップを触った。コウキは携帯電話をかける。相手はスティーブンだ。「はい、スティーブン」と電話に出た彼にコウキは顔をしかめた。
「スティーヴィー?」
「コウキか? なんで携帯がつながってる?」
「ちょっとコッチでややこしいことが起こってな。簡潔に言うと、オトハの世界のオトハのラボとヘルサレムズ・ロッドのどっかのビルの上がつながってる」
「……なんだって?」
「ちょっとまて、場所を特定する――」
そう言ってコウキはバチバチと音をたてる空間に目を凝らす。そして見知った場所が見えた瞬間、口を開いた。
「おそらく、フラットアイアンディストリクト南バーキッソスビルの屋上だ。屋上とラボがつながってる!」
「どうしてそんなことに?」
「オトハが血界の眷属に攫われたんだ。誰か、裏がいる。それも、」
「コチラとそちらをつなごうとしている、ということか」
「さすがスティーヴィー、さっしがいい」
「わかった。コチラもそこに誰も近づかないように配慮する」
「サンキュ」
「コウキ、ダメだわ。オトハのキーが必要になる」
ブラック・ヴィドウの声に、コウキはそちらを見た。何かを打ち込んでも、「アクセス権がありません」と表示されるだけである。
「このままじゃ、このワープホールは大きくなる。オトハを探しましょ。時間がないわ」
「だってよ、スティーヴィー。俺らはラボを離れる」
「ああ、まかせろ」
「携帯がつながってるっぽいから、なんかあったらかけろ」
コウキは携帯電話をきると、もう一度エレベーターを見た。
「別の手段は?」
「こっち」
コウキはそう手招いたブラックヴィドウの後に続いた。