
エスケープ フロム エマージェンシー-6-
まさか走って登るとは思わなかった。コウキは顔をしかめて屋上の扉を蹴り上げる。屋上までは階段で、エレベーターが変な階で止まったものだからそこからは走るしかなかった。ドアを蹴り壊した音に、その場にいた小太りな男は動きを止める。ぐっとオトハを押さえつけているのを見て、コウキが顔を怒りに染めた。
「オトハちゃんを離せ」
「そう言われて離すとでも?」
そう笑った男の顔は大変不愉快だ。オトハは半泣きになりながら、コウキとブラック・ヴィドウを見た。
「おい、コッチに敵が来た。対処しろ」
男の声に反応するように何かがその場に飛んでくる。ソーを床に押し付けると、それ――ハミデフはユルリとブラック・ヴィドウとコウキを見た。
「――牙狩り」
「余所見をするな」
そういったソーがムジョルニアを投げる。ガンっと当たったそれだが、すぐに起き上がりソーとコウキもろとも影を使いタワーの上から下へと落とした。
「く、っそ、」
そう舌打ちをしたコウキにソーが手を伸ばすのが見える。コウキがなんとかソーの手を取ると、ぐん、体は急上昇した。ソーは近くの窓を割りフロアに着地する。
「ケガは?」
「ない。さんきゅ。そっちは?」
「まぁまぁだ」
そうつげたソーをコウキが見る。あれだけの時間戦った割には、傷が少ない。さすが神様というだけある。
「奴は影を使う」
「影?」
「ああ、」
そう告げたソーは窓際まで歩いて行く。コウキが窓際へ行き、下を眺めると、近くのタワーにいたホークアイと目があった。そのさらに下にはクラウスとレオナルドが来ているのが見える。エレベーターが止まってしまった今、どう上がるかをあぐねているのだろう。
「レオナルドが来た。レオナルドが諱を見ている間、動きを抑えればクラウスが封じれる」
「なにか案は?」
「ソーって雷神なんだっけ?」
コウキの言葉に、ソーは「ああ」っとかえした。その返答を聞いて、コウキはにっと口角を上げる。
「あの吸血鬼、落とそう」
「落とす? 下にか?」
「レオナルド達が登ってくるよりはやい。――スタークさん、聞こえるか?」
コウキが無線に手を添えて声をかければ、ああ聞こえると返答が帰ってくる。
「アイツ、影を使って攻撃するらしい」
「そうなのか? それは有益な情報だ」
「俺とソー、雷属性だろ?」
「――なるほど。影をなくすのか」
「一時的にだ。それまでに、レオナルドが諱を読めれば良し。後はクラウスが封じる」
「避雷針を立て、鏡を用意すればいいわけだな。だが、どう落とす? ソーのムジョルニア――いや、それは考えなくていいようだ」
「え?」
「ハルクが行った」
スタークの言葉に、コウキは窓の外をもう一度を見る。窓際を過ぎていった緑の巨体に、唖然として、そして、ソーを見た。ソーはコウキを見る。
「ハルクが地面に落としてくれるっぽい」
「なるほど」
「俺とソーで落雷落として、影を作らなくする」
「それはいい案だ」
そう笑ったソーに、コウキはもう一度窓を見る。また緑の巨体が黒い何かをひいて落下していった。