エスケープ フロム エマージェンシー-8-


「こっちに来れば、薬をやる!」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛!」

 苦しみもがくそれは力を暴走させながら鏡の中に入った。
 まだ、だ。
 ――もう一歩。
 コウキが血で刀を作る。まだ、である。
 ――もう一歩。
 オトハはハミデフを見上げた。ハミデフがオトハを見下ろした。
 そして、ある一定の位置――丁度サングリアのいる中心付近に達した時、コウキが刀を振り投げる。

「斗流血法、刃身の弐 空斬糸!」
「――オトハ、無事だったんだな。良かった」
「――え?」

 不意にそう告げたハミデフに、オトハは目を見開いて彼を見る。その瞬間である。ソーが宙に浮いて、ムジョルニアを掲げるのとコウキが叫んだのは。

「斗流桜血法! 桜雷花!」

 ドォーンとも、バリバリとも言えない音と共に、あたりが真っ白になる。そしてその光は次第にハミデフやサングリア、オトハの前のみとなった。

「レオナルド、早くしろ!」
「あとちょっと――終わりました!」

 レオナルドがスマートフォンを使って諱を送信する。それを見たクラウスが、ナックルを嵌めた。

「ル・モニーレフ・グレゴリオ・コルテス・デ・ヴォルフス・アロンザ、貴公を『密封』する」

 雷が止み、一瞬、ハミデフが目を見開いた。しかし、ハミデフが反撃をするより先にクラウスが懐に入り込む。

「ブレングリード流血闘術――999式 久遠棺封縛獄!」

 そう告げてクラウスがハミデフに拳をぶつけると、ハミデフはガキガキという音とともに十字架となっていく。

「赦し給え、憎み給え、諦め給え。人間界を護るために行う、我が蛮行を」

 地面に落ちた十字架をクラウスは拾いあげる。それを見て、サングリアは近くにいたオトハに銃口を向けた。

「どういうことだ、ハミデフはどこへ!」
「残念ながらあの吸血鬼は密封させていただいた」
「まだ抵抗する気か?」

 スタークの言葉に、サングリアは後ずさりながらも「……ああ」と告げた。

「あの装置さえあれば! またはハミデフと同じような存在を呼べばいい!」
「やめておけ」
「やめておけだと!? ハミデフと同等の能力があれば、この世界を掌握できるんだぞ!」

 そう吠えた男に、キャップが顔をしかめた。

「スターク! 貴様だって、私の話に乗っていれば!」
「知り合いですか?」
「昔商談を蹴った相手だ。気にするな」
「コイツの父親もハミデフも! 最初から言うことを聞いていれば!」
「――どういう意味だ」

 クラウスの問いに、男は鼻で笑う。

「コイツの父親は我が社の研究員でな。十数年前、別世界からハミデフを呼び出した。私はハミデフと装置を差し出すように言った! だが、アイツは! 断ったんだ! ハミデフもな!」
「――なら何故、吸血鬼はお前の元へついたんだ」
「私が狂わせてやったんだ! あの男をな! そして、コイツの家族を殺させた!! 装置を奪うために! あぁ、今でも終わった後のハミデフの顔が浮かぶよ。――あの研究員は、家族は何処行った、と喚いていた」

 可笑しそうに笑った男にレオナルドが「外道だ」と呟く。クラウスがゆらりと動いたのを見て、男はそれを制した。

「おっと、動いたらコイツはお陀仏だ」

  喚く男はカチャリと銃口をオトハにむけ、トリガーに指をかけた。

「おい、いい加減にしろよ」

 静かな声だった。発したのは紛れもないコウキで顔をうつむかせている。

「いい加減に?」
「汚い手でその子に触るな」
「うるさ――」
「汚い手で妹に触れんなっつってんだろうが!!」

  血で刀を作り出したコウキが男に突っ込む。男が引き金を引きそうになったのを見て、キャップが盾を投げる。盾に寄って銃は弾かれ宙を舞う。目を見開いた男に、コウキが近づいていた。

「斗流桜血法、桜流し」

 コウキの言葉と共に、男がグッと倒れていく。コウキは目を見開いているオトハを抱きかかえると、クラウス達の元へ戻った。一件落着か、そう誰もが息を吐いたそんなおりだ。コウキの携帯が鳴ったのは。


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