ウィッシング ユー-4-


 ――かちゃん。
 目の前でなった小さな音に、コウキはゆっくりと目を開いた。

「――クラウス」
「すまない、おこしていまったか」

 そう告げて前に座ったのはクラウスだ。いや、寝てないから気にしなくていい、とコウキは持っていたコミックを机の上に置く。

「よかったのか? あちらに残らなくて」
「ああ。いっただろ? アッチに俺の居場所はないんだ」
「居場所は作ればいい。オトハくんもいただろう」

 クラウスはそう告げて、トレーに乗せていたケーキ――フルーツタルトを一つコウキに差し出す。そして、紅茶も共に差し出した。コウキはサンキュ、と告げて紅茶に口をつける。

「十一年。アイツと俺とがあわなかった時間。昔の偉人曰く、男は3日会わなければ変わるもんらしい。十一年、アイツと俺に出来た溝はデカイ」

 さくり、とタルトにコウキがフォークを刺す。

「三年でこの街が変化して馴染んだ」
「ああ」
「その約四倍だ。お互い変わらないわけがない。俺はオトハが生きてると信じていて、向こうはあの事件で俺が妹だと告げるまで、俺が死んでいるとおもってた。俺は師匠やバカワイイ弟弟子と修行したり、クラウスやスティーブンと共闘したり、ライブラのメンバーとして生きてきた。その間、オトハは――」

 さくり。もう一度コウキがタルトにフォークを入れた。フォークを入れられたタルトはバランスを崩し、潰れる。

「新しい家族ができてた」
「新しい家族?」
「スタークさんだよ。俺とオトハ、本当の家族が過ごした時より、オトハとスタークさんが過ごした時のほうが長い。それをみて、無理だって思った。俺は、これからどうやってもあの十年越しの絆には勝てないって。アイツが一番つらい時、支えていたのはスタークさんだ。俺という存在じゃない」
「――コウキ」
「俺が辛い時、オトハがいるから、どこかに必ずいるからって思って、頑張った。でも、アイツは違うんだ。アイツの中で俺は死んでたから、当たり前だ。でも――」

 俺は。コウキはその先の言葉を飲み込んだ。クラウスが心配そうにコウキを見ていたが、コウキは首を振って紅茶を口に運んだ。

「だからな、帰りにスタークさんに頼んできたんだ。妹をもっと世話してやってくださいってな」
「そうか」
「そうだ。俺にはクラウスやスティーディーがいる。彼女だってつくる。馬鹿な弟弟子や真面目な弟弟子をかまったり、レオをかまったりする。チェインと飲みに行ったりもすれば、K.K.の息子と遊んだり、ギルベルトに紅茶の入れ方教わったり、その他も色々する。俺にはライブラがいる」
「そうだな。そして、オトハくんも」
「また振り出しに戻しやがって。畜生。俺は妹がいるから頑張るを離脱するんだっての」
「……――ところで、コウキ。君は気づいていないようだが、このタルトはキミが好きなフルーツタルトだ」
「……おう」
「――心当たりはないのかね?」

 クラウスの言葉に、コウキは首を傾げる。そして、しばらく、うなった後、「あ」と言葉を上げた。

「俺の誕生日だ」

 そう呟いたコウキが瞬間だ。パチッと電気がつき、クラッカーの音がなる。「ハッピーバースデー」という声に、コウキは唖然とした。みるみるうちにいつものメンバーにパーティーハットを被せられ、なにか花の首飾りみたいなものを付けられたコウキはきょとんよしたままクラウスと園となりに並んだスティーブンを見る。

「俺、誕生日教えてたか?」
「いいや。コウキはファミリーネームを含め、そういったことを一度も我々に教えなかった」
「よな。なんで?」
「オトハくんだ。私が君の誕生日を聞いたんだ。そして、オトハくんからプレゼントも貰ってる」

 クラウスはそう言って、コウキにスマートフォンを渡した。通話中、となっている画面に首を傾げながらコウキは耳を当てた。

「ハイ、コウキ」
「私がスターク姓だろうが、サクライ姓だろうが、私と血の繋がった人はお兄ちゃんしかいないわけなんだけど、そこについての意見をまず聞こうか」

 聞こえてきた声に、コウキはきょとんとして耳を離しスマートフォンをみる。そして、クラウスやスティーブンを見上げた。

「どういうこと」
「いっただろう、オトハくんからの誕生日プレゼントだ」
「……は? 録音?」
「そんなこと言ってると俺が貰い受けるぞ」

 スティーブンの言葉に、コウキはもう一度耳をつける。周りはそんなコウキが珍しいのかまわりは爆笑である。

「――なに? そんなに私と家族でいたくないの? 十年が何? 私とお兄ちゃんは血でつながってんの。ソレ以上の絆はないでしょうが」
「――オトハ?」
「なに!」
「オトハ?」
「だから、何!」
「オトハ!?  え、なんだよ! コレ!」
「うるさい、叫ばないでよ。私が作ったの!  S.H.I.E.L.D.に内緒で!  ワープ技術応用して!  いらないならスティーブンさんかクラウスさんあたりに渡してくれていいよ」
「いるにきまってんだろ!!」
「だから、叫ばないでってば! ――あー、もう、居場所ばれた。面倒なことに巻き込まれる。最悪な週末の幕開けだよ全く」

そうぶつぶつと文句を告げるオトハのうしろからは、スタークの声が聞こえた。コウキが苦笑いしていると、オトハがなにか思い出したようである。

「あ、言うの忘れてた。お兄ちゃんがなんかうだうだ言ってたから仕方ないけど」
「うるせぇよ」

コウキが笑いながら文句をいうと、オトハが「うるさくないよ」と文句を零し、しばらく黙った後にまた口を開いた。

「――誕生日おめでとう。またあえて嬉しかったよ。出てこられちゃ困るとか言ってごめん。そんなことなかった。凄い嬉しかったよ」

 その言葉に、コウキがポロリと涙を流す。その瞬間をレオナルドはシャッターを切った。じゃあね、と切れた電話に、コウキはレオナルドを見る。レオナルドはまたその様子を写真に収めた。

 我に返ったコウキが、レオナルドからカメラを奪おうと立ち上がる。写真の消去を阻止しようとしてきたライブラのメンバーにもみくちゃにされて、コウキは笑いがこみ上げてきた。笑っていれば、バンバンと突き出されるプレゼントに今度はきょとんとする。

「だれだよ、俺にテディベアとか送った奴は!」

 押し付けられた大きなテディベアに、コウキは手を伸ばした。「私たち家族からよ」と告げたK.K.に「うわぁ、おこるにおこれねぇ」とコウキは笑いながら告げる。

 ――それが、はじめて『この世界で』コウキが誕生日を祝った日だった。


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