
アンハッピー ミゼアブル デイ-4-
「あら、おきたの? オトハちゃん」
ゆっくりと体を起き上がらせたオトハに、ペッパーは頭を撫でた。具合はどう? と首を傾げたペッパーに、オトハは首を左右に振って膝を抱えて丸まった。
「キャップは? トニーさんは?」
「一緒に買い出しに行ったわ」
そう告げたペッパーにオトハは息を吐いてチラリと周りを見る。周りには飾り付けが付いていて、今年も張り切っていたんだろうな、とオトハは推測した。スタークは毎年、あの手この手でオトハの誕生日のトラウマをなくそうとしてくれている。と、いうのも、一年目のオトハの誕生日にオトハが全てを拒絶したことが頭に残っているからだ。全てを拒絶し怖がるさまは当時のスタークにも痛々しい物があったらしい。
登り始めたエレベーターに、帰ってきたみたいね、とペッパーはエレベーターを見る。きっと毎年のようにプレゼントやオードブル、オトハが好きなケーキなんかを山ほど抱えて――正しくは山ほど抱えた業者を連れて――帰ってくるのだろうな、とオトハもエレベーターを見た。
チン、という音がなりエレベーターの扉が開く。乗っているのは一人だけだ。
「あら、貴方は――?」
「ペッパーさん、伏せて!!」
「きゃあ!」
オトハは思いっきりペッパーを掴むと地面に伏せる。乱射された銃に、窓ガラスが割れていった。
ソファのうしろからエレベーターを見れば、男がいた。にたり、と笑みを浮かべた彼は一歩部屋のなかに足を踏み入れる。オトハは一気に青ざめた。震える体にムチを打ち、ジャーヴィス!と声をかける。
「――オトハ様、何がおこっているのですか」
「嘘でしょう!? 侵入者がいるの!」
「無駄だ、俺は機械には判別できない」
そう告げた男は何処か楽しげである。銃を手に持ったままオトハに近づくが、オトハは恐怖で動けない。オトハを庇い前に出たペッパーを男は蹴り飛ばす。人間ではないような脚力で蹴り飛ばされ、壁に激突したペッパーは動かなくなった。ズルズルとオトハは後ろに下がる。あ、う、と短く声が出るが、まともな言葉にならずにきえていく。
オトハの昔の光景が頭の中にフラッシュバックする。男はそんなオトハの様子を楽しそうに追い詰めていく。つっと、男がオトハの首に手を伸ばす。そのまま片手でオトハの首を絞めると、宙に体を持ち上げた。オトハもせめてもの対抗に手を殴ってみるが、変わることはない。男はどこからか取り出した赤い刃物でオトハの頬を撫でた。
同じ、男だ。赤い瞳を持つ、あの、子供に手を引かれていた男である。
オトハの意識が落ちそうになった、その瞬間である。エレベーターの扉が開いたのは。現れた二人の姿を最後に、オトハは意識を飛ばした。
現れた二人は、光景を見て、目を見開き、男は舌打ちをした。
「オトハ! ペッパー!!」
「オトハを離せ!」
「ああ、いいぞ、離してやる」
ロジャースの言葉に、男は笑う。そしてそのままオトハを窓の外に放り投げた。
「ジャーヴィス!!」
「了解いたしました、サー」
スタークの言葉に、ラボから一体のアイアンマンが飛んでいく。男はヘラヘラと笑うだけだ。
「彼女を安全なところへ」
スタークに指示を出したロジャースが男に向かって攻撃を仕掛ける。男は軽々とソレを避け、ロジャースと距離をとった。そして、今度は男がロジャースに攻撃をする。ロジャースはソレを何とか避ける。そう続く小競り合いに、スタークがパワードスーツを着て現れた。それを見て男は、舌打ちをする。
「ヒーロー二人とは。赤いのは使いものにならないが引くのが得策か」
「どういう、」
ロジャースの言葉に男は鼻で笑うと、ロジャースに向かって隠し持っていた銃を撃った。慌てて避けたロジャースの隙をついて、男は窓から飛び降りる。
「トニー、窓の外だ! 何をしてるんだ!」
ロジャースの声に、はっとしたようにスタークは窓から身を乗り出すが顔をしかめた。
「男が見えない」
ロジャースはその言葉に顔をしかめ、窓の下を見る。男が落ちた痕跡もなければ、オトハを拾ったアイアンマンがいる気配もない。
「サー、オトハ様を拾ったアイアンマンの行方が不明な場所に落ちました。通信は妨害されます」
「不明な場所だって? 今さっき、窓の外だぞ?!」
「ええ。存じ上げております。しかし、一瞬、あの次元ホールのようなものができ――正確にはオトハ様を掴んだマーク43ごと次元転移した可能性があります」
「それは、後でいい! オトハが生きていればなんとかなる! だが、トニー、どうしてすぐに男を追わなかった!」
「見えなかったからだ! いないとおもった!」
「何を言ってるんだ! あの男はずっとこの部屋にいた!」
「僕からは君が変な動きをしたようにしか見えなかった! ――そもそも、ジャーヴィス、何故あの男をこの部屋へ入れた!!」
「申し訳ありません、サー。しかし――感知できなかったのです」
「感知できないだと?」
「私が異変を察したのは、誰かが銃を乱射したタイミングでした。それまで、監視カメラにも何も反応がありませんでした」
ジャーヴィスの言葉に、スタークは珍しく舌打ちをした。チン、という音がなり開いたエレベーターを二人は見る。
「ひどい有様だな、こりゃ」
「なにがあったの?」
現れたナターシャ・ロマノフ、別名ブラック・ヴィドウとクリント・バートン――別名ホークアイ――の二人に、ロジャースとスタークは顔をしかめたまま息を吐いた。
二人が疑問に思うのも当たり前だろう飾り付けられた部屋は散らかった部屋に様変わりしている。渡すはずだった子供じみたテディベアが、行き場をなくして床に転がっていた。