
イッツ ビヨンド エクスペクタティオン-1-
この世には、触れてもいい「不思議」と触れてはならない「不思議」がある。それは科学的な疑問であったり、心霊現象であったり、ただの人間の技術では解決できない問題や普通の人ならばまずは触れない謎であったり、恋人の言動や友人の噂など触れられないものもある。
この街、ヘルサレム・ロッドにも勿論多くの不思議があった。大崩落が起こったことをはじめに今の今まで奇跡とも呼ばれる多くの不思議な現象がおこるが、その殆どが多くの人には触れてはならないものだ。そして、ヘルサレム・ロッドにも、もっとちいさな不思議もある。例えば――。
「え、コウキさんに妹なんでいたんすか?」
身の回りの人の、家族事情だ。
特注のケーキの袋を持ってゴーグルをつけた青年――レオナルドが隣にいるオードブルを持った銀髪の男――ザップを見た。なんとも気だるげに「そうらしいぞ」と告げたザップにレオナルドは首をかしげる。
「そうらしいぞ、って、ザップさんの兄弟子でしょう? もっとこう、確信ないんですか?」
「なんとも言えねーな。アニさんの妹の話はライブラでいう七不思議っつーか、タブーに近いんだよ」
「なんで?」
「妹が存在しない」
「は?」
動きを止めたレオナルドに、ザップはケーキを落とすなよ、と声をかけた。
「存在しないなら、誰の誕生日を祝うんすか!?」
「知らねーよ。毎年こうなんだ。アニさんは妹の誕生日を祝ってご機嫌になる、俺たちはただ飯にありつける。今までも気にした奴がいたが――……」
ザップが不意に言葉を止めて、レオナルドを見下ろす。レオナルドはゴクリと唾を飲んだ。ザップはそれを見て、そのまま無視をするように扉を開けた。
「アニさん、ケーキとオードブル持ってきたぞ」
「おー、サンキュー! ザップ!」
「え、ちょっと、ザップさん!?」
「ほら、さっさと準備しろよ、レオ。アニさんの機嫌を損ねる気かテメェ」
「ええ!?」
ちゃっかりとオードブルを机に置いたザップは椅子に座っている。レオナルドは息を吐いて、あらためて周りを見渡した。いつもは質素な部屋が飾り付けられている。メンバーはいつものメンバーであるが、パーティーハットをかぶっているのを見ると変な感じだ。あのスティーブンでさえもパーティーハットを被っている。レオナルドがケーキを机におけば、メガネをかけた男性がレオナルドにパーティーハットをかぶせた。
「んじゃ、参加者が揃ったし! 俺の妹の20歳を祝いたいと思います!」
ひゃっほう、と声をあげた男性に、レオナルドは自分と同い年ぐらいなのか、とぼんやりと思う。となりにいた金髪に眼帯をつけた女性――K.K.も「あらもう20になるのね」だなんて零す。
「ので、今回は奮発して一段と高いケーキを買った! 皆心して食べよ!」
そういった男性は箱からケーキを取り出す。オォ、と歓声をあげたのは仕方がない。綺麗にデコレーションされた二段のケーキで、その上にはチョコレートでハッピーバースデーと書かれている。どこぞの高級ホテルのケーキよりも高い――しかし、世界一ではなくHL一美味しいと評判のケーキ屋のケーキである。
「じゃあ、俺の愛しの妹の誕生日に!」
グラスをあげた男性に、まわりもグラスをあげた。
「かんぱ――」
がしゃん、ぐしゃり。
音にしてまさにそれである。
いきなり降ってきたソレはケーキを潰した。一瞬驚いたもののザッと距離をとった周り。もちろんレオナルドもとなりにいたツェッドに引っ張られて机から離れていた。ただ、乾杯の音頭をとった男性だけが肩を震わせて近くにいる。ふってきた何かをよくよく見れば、ロボットのようなソレである。赤色と金色で着色されたそれは、全世界で――HLでも一部には人気のヒーローに似ていた。戦闘態勢に入った周りだが、それは全く動く気配はなかった。
「……パワードスーツの類か? 何処から現れた? 人狼の類か?」
「っの、人狼だろうが、なんだろうが、俺の愛しの妹の誕生日ケーキを潰しやがって……」
ポツリと呟いた男性に、ザップが「うわ、やべぇ」と言葉を吐いた。
「アニさんマジギレじゃねぇか」
こりゃあ、血の雨が降って全体的に食べ物がオジャンだな、と告げたザップにレオナルドは「ええー、」と言葉を吐いた。スティーブンから向いた視線に、ゆっくりとレオナルドは目を開く。金属のロボットの中に人はいない。ただ、それが庇うようにした先に人がいる。動く気配は全くない。
「そのロボットの中は人はいません。ただ、その先に人がいます。でも、動いてない」
レオナルドの言葉に赤毛の大男――クラウスがロボットに近づく。武器を構えた男性の肩を叩き、武装を解除させ、そっとロボットに触った。動かないそれは抱えるように何かを持っているのが見えた。ロボットを持ち上げれば、そこにいた存在に目を見開く。
「ギルベルト、医療品を」
「はい」
「クラウス、なにがいたんだ?」
クラウスはロボットを持ち上げて、人物を引っ張り出す。それを抱えると、周りは目を見開いた。
「女の、子?」
「意識を失っているようだ。とりあえず安静にさせよう。目が覚めたら話を聞けばいい」
そう告げたクラウスに、だが、と何かいいかけて、スティーブンは息を吐く。そうだな、そうしよう、とため息をつけば、クラウスはその少女をソファに運ぶ。怒りにワナワナと震えていた男性は、少女のポケットから何かが落ちるのを見つけた。カードのようなソレである。男性がひろいあげれば、それは社員証であったらしく会社名と名前が書いてあった。
スターク・インダストリーズ社
開発第二チーム チーフ
オトハ=サクライ
書かれていた文言に目を見開いて、男性はソファに移された少女を見た。
「まさか」
小さく漏らした言葉は気付かれずに空気とかす。
「誕生日会はまたの機会ね……ちょっと、コウキっち?」
微動だにしない男性――コウキに、K.K.は首をかしげる。レオナルドが恐る恐るといった感じにロボットに触るが動かないソレ。ツェッドがそれを持ち上げると、壁の方へと避けた。