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「苗字名前!」
「はい」
「お主には委員会に入ってもらう。明日から2日ずつ回っていくように!」
「かしこまりました」
「解散!」

 ボフンと初めと同じ音がして、煙が消えた時には学園長も消えていた。

「まあ、宜しく頼むな」

 ぽすんと肩に手を置いた食満を見上げる。

「ええ、宜しく」

 これからが怖いよ、と名前は小さく呟いた。




「学園長先生、良かったのですか」

 生徒達が去った庵で、入れ替わるようにして天井から降りてきた学園長を教師は取り囲む。口火を切った1年ろ組教科担当の斜堂に、半助も一つ頷いてみせた。

「なにがじゃ。くノ一教室に入れるのは、お主らも反対しておったじゃろう」
「それはそうですよ。
 6年から聞く彼女の体力は相当ですし、くノ一の術もかからないとなれば、くノ一に置いておくのは危険でしょう」

 全く安藤の言う通りで、天女が口にした理由はあくまで二の次三の次。
 今はまだ天女としての本性を隠していると言うことも十二分にありえるのに、力のある女をくノ一に置いておくのは危険だ。ましてや、くノ一をそそのかされては山本も困るだろう。
 ともかく、いくら男勝りでもここなら下手に動きにくいだろうと言うのが教師陣の目論見である。だというのに

「くノ一に入れたところでさしたる危険はないと思うがのぉ……」

 唯一天女に騙されたことがないからそんな呑気でいられるのだ。

「ですが学園長、問題はそこではありませんぞ」
「なんじゃ山田先生」
「どうして彼女を6年に入れたのです?
 潮江の言う通り、彼女には6年と渡り合うことは出来んのではありませんか?」
「うむ。まぁそうじゃな、真っ向から渡り合えることはなかろう」
「でしたらなぜ」

 思わず身を乗り出して聞いてしまう。この人は抜けているようで抜け目ないが、同時に全く考えがないことも多くある。そして、その迷惑をもろに被るのは半助達教師だ。
 こと天女という問題に対して軽い気持ちでいるなら、考え直してもらわなければ。

「彼女の言っていることを信じるのなら、プロ忍に一番近い6年生は得ることも沢山あるじゃろうて」
「はあ」
「まぁ見ておれば分かる」

 はぐらかされたのだろうか。学園長はヨイショとその場に立ち上がると教師陣をぐるりと見回した。

「心配するでない。既に担当を持っている先生方は忙しいじゃろうから、に組の担任はわしじゃ」
「……はなからそのおつもりで?」
「無論。彼女が何か起こしても、生徒達に心配をかけるようなことにはせん。
 わしが彼女の学園生活を決める」

 そこまで言われると何も反論できなかった。
 我儘で顕示欲の強い人ではあるが、しかし誰がなんと言おうと忍術学園を作ったのは学園長にほかならない。ボケているようで老獪であることも、数々の"思いつき”をこなして嫌という程分かっている。

「学園長先生。女だと言うことで何かあれば、私に声をお掛けください。力を貸しましょう」
「シナ先生、そう言っていただけると大変ありがたい」

 すくり、隣に正座していたヘムヘムが立ち上がると学園長の側による。

「なんじゃヘムヘム」
「ヘム、ヘムヘムゥ。ヘムヘムヘム、ヘム!」
「そ、そうじゃった! 楓ちゃんと如月ちゃんに会うんじゃった……
 ヘムヘム、急いで支度じゃ!」
「ヘムッ!」
「今日はこれにて解散じゃ!何かあれば今日の夜また来てくるが良い」

 「ほれ行くぞヘムヘム」と現れた時の忍者らしさは何処へやら、大きく足音を鳴らして出て行った学園長を溜息と共に見送る。

「……どうなることやら」

 半助は呟いて空を仰いだ。




正体を暴け 終