元気がないキミ (1/2)

―――6月上旬のとある日。
いよいよ高総体、通称インターハイ予選が始まり、バレー部も初日の試合を終えた夜。常波高校と"鉄壁"と言われている伊達工業高校にストレートで勝ち上がったと影山から電話があった。強豪だった烏野男子バレー部は昔一度だけ春高で全国に行ったことがあるらしいが、そこから衰退していまい、何時しか"堕ちた強豪、飛べない烏"などという変な異名が付いてしまったようだ。だが、無事に今日の試合で「飛べない烏が再び羽ばたく瞬間を会場内に見せつけられた」と武田先生が嬉しそうしていた事を影山は話していた。影山自身も勝利を得た事に心から嬉しそうだったが、その声はそれまでで、途端に声色が変わり「明日は青葉城西と試合をする」と言った。私は思わず息を呑んだ。そして何かを決意したのか、そこから影山は自分の中学時代についてぽつりぽつりと話し始めた。自分が中学の時に"コート上の王様"と呼ばれてたという事。でもそれは影山が天才だからとか、そういった意味合いで一目置かれていたわけではなくて、実はそれとは全く違った意味での異名だったという事。その"自己中"で"横暴"な王様は中学最後の試合でついに孤立してしまった事。そして当時のチームメイトが今、明日の対戦相手である青城にいるらしく、更に自分の目標としていた"とある先輩"もそこにいる事。それを聞いて私はあの3対3の時に長身の眼鏡君が言っていた王様の「自己チュートス」という意味がようやく理解出来た。でも、それは昔の影山であって、今の影山は変わりつつあると私は思っている。確かに、特訓を手伝っていた時の影山の態度には引っ掛かるものはあったけれど、今話で聞いた中学時代の影山とあの試合で私が実際に見た影山の印象は全く違った。
最後に影山は、結果が出たらすぐに連絡すると言って電話を終えた。だから私もその日はいつでも電話に出られるようにずっと携帯を握り締めていた。しかし、その"明日"が終わっても影山から連絡が来ることはなかった。






「…………」

遂に月曜日の朝を迎えた。1時限目は数学。
隣の彼は珍しく身体を起こしていた。いつもならバレー部の朝練で体力を使い果たして午前中は机に身体を突っ伏していたはずなのに今日は違った。しかし彼の視線は黒板ではなく、窓の外に向けられていた。こちらと目が合うことはない。今朝からあの状態のままだ。いつもだったら私が登校してくると朝練を終えた影山が既に着席していて、私の存在に気付くと真っ先に彼は「おはよう」と言って相変わらず「早くマネージャーやってくれ」としつこいくらい勧誘してくる。それに対して私は「だが断る」とあしらうはずだったのに今日はそれが無かった。いや、連絡が全く無かったことからして、昨日からなんとなく察してはいた。でも、実は勿体振ってるだけなんじゃないかと淡い期待もあった。ただ、今日の影山のこの様子を見て確信した。負けたんだ、と。
授業終了のチャイムが鳴っても、影山はその場から動く事はせずに、次の授業の教材の準備をする仕草もなくただただ頬杖をついて第二体育館が見える窓硝子に顔を向けていた。


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