元気がないキミ (2/2)
気が付けば4時限目の終わりを告げるチャイムが校舎内に鳴り響いていた。そうか、もう昼休みか。時間の感覚すら忘れていた。心にぽっかりと穴が空いたような、そんな気分だった。無気力、今の俺にはこの言葉が似合っていた。
昨日の試合のあの結果。俺はまだあの人に追い付いてなどいなかったんだ。
「影山っ!!」
突然、俺を呼ぶ声が教室に響き渡る。あれほどざわついていたクラスの連中も一気に静まり返ってこちらに注目している。目の前に立ちはだかるのは俺よりは遥かに背丈の小さい女子、隣の席の椎名だった。彼女は不機嫌そうに眉に皺を寄せて、椅子に座る俺を見下ろしていた。そういえばまだこいつに昨日の試合の結果、報告してなかったな。
「わりぃ、昨日の試合だけど「今から付き合え!!」……はっ!?」
椎名は俺の腕を勢いよく引っ張るなり教室を出ては走り出した。引っ張られた反動でガタンと倒れてしまった椅子を直す余裕も与えずに。教室を出る時、クラスの連中が「またあいつらか?」と苦笑いしながらそろそろ呆れ始めていた。俺の腕を引きながら前を走る椎名の脚力は思いの外速いことに驚いた。そしてこのやりとりだが前にも似たような事があったような……そうだ、入学したての時に俺が椎名がバレー経験者だという事を偶然知って、無理矢理日向の特訓に付き合わせたあの日だ。
しばらく走っていると、辿り着いたのは第二体育館。当たり前だがそこには誰もいなかった。
体育館の中に入ると椎名はぱたぱたと奥にある用具庫の中へと入っては出てくると、その手にはバレーボールが。ボールが空中へと投げられると、椎名もそのボールを追いながら身体を跳ねて、放つ。
―――バシン!!
ああ、椎名もジャンプサーブ出来るのか。昨日の青城との試合のことを思い出す。コントロールが抜群で、確実にボールは俺に向かってくる。まるで及川さんみたいだ。流石に威力はあの人には劣るが。てか、ん?俺に向かって――――?
―――バコォン!!
「っ!!!」
ボールは顔面にまともに食らい、思わず顔をしかめる。「いきなりなにすんだ、」と椎名に文句を言おうとしたが、あまりにも当たった鼻が痛くて声が出なかった。あまりの痛みで自然に目から涙も出ていた。そんな俺に心配の声、はたまた謝罪の声もなくアイツは声を張った。
「ぼさっとしてんじゃねぇよ影山ボゲェ!だから負けんだ、"王様"!」
それを聞いて腸が煮えくり返るような気分だった。いきなり体育館に連れてくるなり、顔面にサーブ打ち込んどいてなんだ、と。なにより腹が立ったのは椎名の口から"王様"というワードが出てきたことだ。未だに痛みが引かない顔に手を当てながら、俺は椎名を睨んだ。冷静さを欠いた俺は最早何故椎名が結果を知っているかなんてどうでもよかった。
「あ、やっと寄った」
「なにが、だ」
わけがわからない。俺はこんなにも苛々しているのになんでこいつは涼しい顔してんだ。
「シワ」
「だから、眉間に」と自分の眉間を指さしてから今度は俺の眉間を指していた。
「やっぱりそっちの方が、影山らしい」
それから椎名はニシシ、と歯を見せながら笑った。その笑顔を見て、俺は苛々とさっきまでのモヤモヤした気持ちは嘘のようにすうっと消えていった。
「負けたからって立ち止まってる暇なんてないよ。こうしてる時点で"先輩"にまた一つ置いていかれるんだから」
そうだ、何やってんだ俺は。本当ならこの悔しさをバネにして練習しなきゃいけないのに。日向だってそうだっただろ、部活から追放された日、俺に「勝ちに必要な奴ならトスを上げる」って言われて昼休みまで使ってレシーブの練習してたんだ。今のままの俺じゃ、及川さんを越えることなんて到底無理に決まってる。だから椎名はこうやって俺に喝を入れたんだ。
よし。俺は両手で自分の頬を叩いた。
「昼休みぐらいなら練習付き合うよ」
心を入れ替えた俺の姿を見て、椎名は確かにそう言った。
「―――言ったな?覚悟しとけよ、立てねえくらいやるぞ」
「影山、その誤解を招くような発言いい加減やめなよ。あと立てないのは困る」
椎名は苦笑いしながらそう忠告した。俺には自分の発言に何がいけなかったのかは分からなかったが。
そんな時、外の渡り廊下からどたどたと走る音が聞こえてきた。間違いない、これは日向だ。体育館の中に入った日向は俺と椎名の姿を見て少し驚いたようだが、いつものように
「影山!トスくれ!椎名さんも球出しとアドバイスもあればお願い!」
「ん、オッケー」
両手を合わせてお願いする日向の姿を見て椎名は快く了承していた。
ああ、やっぱりお前には傍で俺たちを支えてほしかった。だから諦めきれないんだ。
(2014.08.16)
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