夏のニオイ (1/2)

「なぁ椎名、1回だけでいいんだ。プールに入「あー先生、お腹痛いんで見学します」……またか」

バシャバシャと響く水音と生徒たちの騒ぎ声が聞こえる午後。プールサイドには本来はスクール水着であるべきはずだが、見学であろう制服を着たままの女子生徒が教師の説得に頑なに応じようとはしなかった。心なしか眉を潜めて不機嫌そうな顔を浮かべる低身長女子……あれは椎名だ。腹痛を訴えてはいるが、どうも体調が悪いようには見えないのは俺だけだろうか。
――――6月下旬のとある夏日、1組から3組までの男女合同の水泳授業が始まり、早2週間。思えばアイツは一度もプールに入ろうとはしなかった。何かと理由を付けて見学を突き通している。先生もそろそろ頭を抱えているのが分かった。何故そこまでプールに入りたがらないのか、俺には全く理解が出来なかった。そんな椎名が気になった俺はプールの中から彼女いるプールサイドへ向かい、声を掛けた。いや、正確には掛けようとしていた、のだが。

「影山ーっ!!」

バシャア!!

その声に反応した俺はそちらに振り向くなり大量の水が顔面に直撃した。水を吸ってしまったせいか鼻が痛い、物凄く。どうやら犯人はプールサイドに立っているホースを握った日向だった。

「か………影山、大丈夫?」

こちらの様子に気がついた椎名が俺の元に足元をペタペタと音を立てながら寄ってきた。しかしながら今の俺は、椎名に反応出来る程の余裕は無かった。苛々した俺は青筋を立て、真っ先に日向の方に向かっていた。「かっ、影山っ!わ、わるかった!」と謝っていたような気がしたが時既に遅し。仕返しをしようと下から日向の足を引っ張っていた。
ザパァンと大きく水飛沫を上げ、軽い日向を水中に放り込むのは難なく成功したが、一つだけアクシデントが起こってしまった。

「……びしょびしょ、なんだけど」

椎名の方を見ると、全身に水が滴っていた。しまった、今の水飛沫が被害に遭ってしまったようだ。

「……水色だ」

日向が顔を真っ赤しながらそう呟くのが聞こえた。その意味は幾ら頭の弱い俺でも容易に理解出来た。ブラウスが濡れてしまったせいで下着が完全に透けてしまっているのだ。それは確かに水色だった。目のやり場に困った俺は取り敢えず日向の頭を拳で殴っていた。「いてえ!」って騒いでたが、そんなのは放っておく。
慌ててプールから上がり、フェンスの穴に詰めて引っかけておいたバスタオルを引っ張り出し、椎名の肩に掛けた。これ以上この姿を公衆の面前に晒しておくわけにはいかないし、第一、この格好のままじゃ風邪を引く。

「わるい椎名!」
「!あ、ありがと…」

こいつの事だ、ずっと見学を突き通してるし、運動部でもないから体操着なんて持って来てないだろう。
急いで椎名の腕をとって歩き出すと、「えっ!?」と間抜けな声を出していた。

「その格好じゃ色々…まずいだろ…。その、俺の体操着…貸す。だから保健室行くぞ」






保健室に行くと誰も居なかった。「そこで待ってろ」と椎名に言って教室へ自分の体操着を取りに行った。しばらく水泳の授業だったから俺も学校の体操着は持ってきてはいなかった。服濡らしたのは自分のせいだから仕方ない、替えだってあるんだ。俺は部活の体操着を持っていく事にした。
保健室に戻ると椎名はベッドの上に座っていた。俺は何を思ったのかその姿が色っぽいと感じた。水に濡れて滴る髪、肌に張り付いたブラウス、そしてそこから透ける、肌着。
どくんどくん、と心拍数が上がっているのが自分でも分かる。

「あ、おかえり」

椎名の声で我に返ると、何事も無かったかのように「これ、使え」と言い、体操着を差し出した。

「え?!これ、部活のやつじゃん!今日の部活どうするの?やっぱ影山に迷惑だし、いいよ」

あろうことか椎名は申し訳なさそうに体操着を突き返してきた。濡れた状態のままの椎名を直視出来ない俺は早く着替えて欲しかった。いや、正直早く着替えて欲しいと言えば少し嘘になるが、今にも自分がどうにかなりそうだった。

「っ!部活やると汗かくから2着持ってきてて………いや、てかそもそも俺のせいでこうなったんだろ。……あー!!いいから早く着替えろボゲェ!!」
「うわっ!」

動揺していた俺は体操着と共に椎名をベッドに押し込め、勢いよくカーテンを閉めた。


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