夏のニオイ (2/2)

取り敢えず着替えさせることに成功したものの、今度は静寂した保健室の中にカーテンの奥から布が擦れる音が鮮明に聴こえてくる。もちろん俺も男なのだから"そういうこと"に敏感になるわけで、段々と意識はそちらへと傾いていた。身体が硬直し、左胸に手を当てると再び心拍数が上がってきた。
今、このカーテンを開けたら――――。

「っ椎名、」

いけない。
気を紛らすようにカーテン越しから椎名のを呼んでいた。
今、俺の声は震えていないだろうか?
変だと思われてはいないだろうか?

「んー?」
「お前なんで、いつもプールの時は見学なんだ?」

良かった、気付かれてはいないようだ。
投げ掛けた質問は以前から疑問に思っていたことだ。それを投げ掛けられた彼女は声色が変わった。

「…………な………から」
「は?何て言った?」

声が小さくて聞き取れない。

「だから!泳げないから!」

驚いた。負けず嫌いの彼女が最初から挑戦しようとしないものがあったなんて。出来ないものなどないと思っていた。

「プール嫌いなのか?」
「厳密に言うと、プールって汚いから入りたくない。あの水が口とか耳とか目に入るって考えると鳥肌が立って。だから、気付いたら泳げないままだった」

それを聞いたら俺も少し鳥肌が立ってきた。今まで平然と入っていた自分が間違っていたのではないかとふと考えてしまった。その反面、泳げないという椎名の意外性につい面白くてぶっ、と吹き出すとさっきまで閉まっていたカーテンが開いた。

「笑うなっ」

顔を紅くしながら椎名が立っていた。それより目が奪われたのは俺が着ると丁度良いサイズのはずの体操着が椎名が着るとあまりにもだぼだぼになってしまうということだった。身長差約30センチもあるのだ。今さらながらそれを想定していなかった。
未だ固まったままの俺に「影山…?」と少し首を傾げながら顔を覗いてきた。肩の位置が少しずれていて、半袖の丈も太股ぐらいまであり、下のハーフパンツに限っては椎名が履くと最早七分丈になっていた。まさに着られている、という感じだ。
驚いたことに、だ。俺は不覚にもそんな椎名を見て"カワイイ"と思ってしまったのだ。そんな俺に構わず椎名は言葉を続けた。

「それよりホントごめん影山!明日ちゃんと洗って返すから!」
「お、おう……」

その時からだろうか、俺の中で椎名夏芽に対する意識が少しずつ、確かに変わり始めていた。

(2014.08.12)

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