回避不可能 (1/2)

朝登校をすると、既に教室にいたクラスメイトたちはそろそろ夏休みが迫っているからか、友人同士で「海に行こう!」とか「やっぱ夏といえばネズミーランドでしょ!」などとこれからの夏休みをどう過ごすかについて盛り上がっていた。しかしその前に現れる皆が嫌いな一大イベント、"期末テスト"が話題になっている連中も中にはいた。教室を見渡すとテストに向けて勉強をしている生徒も少なからずおり、私もここ最近は部活を早めに切り上げ、自宅ではテスト対策に向けて真面目に勉強に励んでいる。正直もう高校受験の時のようにはなりたくない。
自席に辿り着くと、既に着席している影山に目を疑った。珍しい事にノートと数学の問題集を広げ、シャーペンを握っている。勉強嫌いな影山のバカさ加減はこの前の中間テストで重々承知している。だから今日は大雨が降るんじゃないか。しかしノートを見ると問題の解答どころか「知るかボゲェ!!」と書き殴られていた。更に影山の顔はかなりゲッソリしていた。目が据わっている。まるで魂が抜けたかのように「赤点……補習……遠征……東京………」などとよくわからない呪文を何度も機械的に唱えていた。

「……なんかあった?」

そんなただならぬ様子の影山に少し引き気味になりながらも心配の声を掛けてみるとヤツはガガガガガと小刻みに首をこちらに向けた。ちょ、なんかコワイ!!

「期末テストが!!!!赤点だと!!!!!補習で東京遠征行けねえんだよぉぉおおおお!!」
「か、影山っ!分かったからそんなに揺らすな!なんか出るうう!!」

突如椅子から立ち上がった影山は私の肩をがっちりホールドし、これでもかというくらいブンブンと揺さぶってきた。(……ウッ、吐き気がっ…)
色々言いたいことあったのに……。「御愁傷様です」とか「東京土産ヨロシク」とか。
こちらまで魂が抜けそうになっていると影山はピタリと肩を揺らすことを止め、「そうか!」と何か閃いたようだ。これを昼休みに、しかも食後にやられていたら完全に口からナニカ出ていたであろう。正気に戻った影山はじぃーっ、と私を見つめた。うん、これはきっと、いや絶対何かを言う合図だ。ものの数ヶ月だが、影山との付き合いが多いせいか、何となく言いたいことが分かってきた。

「椎名!ベンキョー教えろ!月島じゃだめだ!」
「……デスヨネー。てか、あれ?月島って誰だっけ?」
「日向なんかに負けねぇ!」
「聞いてねーよ………って、え?」

耳を疑った。
まさか日向もおバカなの?あ、でも日向だったら少し納得出来るかも。本能に赴くまま生きてそうだし、なんて思ってたら日向は怒るだろうか。

「……そっか、じゃあ今日から昼練はなしで勉強会やろう」

そう提案をしてみると影山は露骨に嫌そうな顔を浮かべては舌打ちをしていた。頼んどいてなんなんだコイツは。しかも命令形で。
「別にバ影山が赤点取って東京行けなくなろうが私にはカンケーないけど」とささやかな抵抗をみせると「バカゲ……?!やるよ!!やってやる………りますから勉強を教えろ下さい!!!」とワケの分からない日本語が返ってきた。

「あ、じゃあ日向も連れてきなよ」
「は?日向?なんで連れてこなきゃいけねぇんだ?」
「………」






「……日向は?」

何だかんだ言って素直な影山は昼休みになると日向がいる1組まで足を運んでいたものの、教室に戻って来たのは何故か影山一人だけだった。

「谷地さん………新しく入ったマネージャー、進学クラスだからそっちから勉強教えてもらうらしい」
「マネージャー……?」

影山の発言を聞いて、一瞬ドキリとした。明らかに自身が動揺しているのが分かる。そんな、いつの間に、そんなの影山から聞いてないよ。
心臓が煩いくらいにバクバクいっていると同時にチクリと胸が痛む。少しばかりだけど、息苦しい。なんなの、これ。分かんない。新しいマネージャーが入った、良かったじゃない。だって私はバンドがやりたいから今まで断り続けていたんだ。これからは影山からの勧誘もなくなる。私は毎日のそれが困ってたんだよね?それなのに「ああ、別に私じゃなくても良かったんだ」って何処かで寂しがってる自分ってずるくない?幾ら誘われてもやる気はないんだよ?マネージャーが見つかって嬉しいはずなのに、泣きたくなる。ねえ、なんなのこの気持ち。

「椎名?」

異変に気付いたのか、影山は私の顔を覗き込んできた。何となく今の私の表情を見られたくなくて私は慌てて影山から顔を逸らした。

「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた。じゃあまず数学から始めようか」

私って何でこんなにもずるい奴なんだろう。


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