大きな一歩 (2/3)

「…………」

来てしまった。
椎名の家の前にやって来た俺はごくりと生唾を飲むと、意を決して目の前のインターホンに手を伸ばした。緊張のあまりぎゅっと握りしめていた片方の拳には汗が出てきているのが分かった。しばらくすると玄関のドアが開き、そこには初めて見る私服姿の椎名がそこにはいた。しかし学校の時とは雰囲気が少し違い、メイクをしており、服装は白のノースリーブのブラウスに黒のショートパンツという何ともシンプルなものではあったが、そこには確かに惹かれるものがあった。

「(生足じゃねえかっ……!)」

ショートパンツから伸びた白くスラッとした脚。普段、制服時の椎名のスカート丈は大体膝上10センチくらいの長さで短くすぎでもなければ長くもない長さだ。椎名以上にスカートが短い女子は幾らでもいる為、女子の生足というものは見慣れてはいるはず(というかそれまで女子の脚を気にしていなかった)だが、椎名のように普段必要以上に露出をしないからこその、日向の言葉を借りるならば、グワァーッ!だろうか。そういうものを感じた。

「てか影山は部活休みなのにジャージなんだね」
「迎えに行くがてらロードワークしてた」
「…へえ、休みの日にもかぁ。影山は本当にバレーが好きなんだね」

そう言った椎名は口許に手を添えて、クスリと笑っていた。"好き"という言葉にドキリとし、何だか照れ臭くなった俺は椎名に背を向け、「行くぞ」と言って目的地へと歩き出した。






市内にある大型ショッピングセンターに着くと、俺たちはまずスポーツショップへと向かった。

「こっちのはどう?軽くて動きやすそうだよ」
「おう、履いてみる」

バレー経験者の椎名の意見も取り入れつつ、色んなシューズを試しに履いてみては比較していた。そんな時だった、座り込んで靴紐を結んでいると目の前に近付いて来たホワイトカラーのジャージを履いた足元が視界に入った。
―――まさか、

「あ、飛雄ちゃんだ〜」

そのまさかだった。顔を上げると、そこにいたのはホワイトカラーがベースでスカイブルーのラインが入ったジャージを着た少年。女子受けするその甘いマスクはお決まりのあの営業スマイルで手をひらひらとこちらに振っていた。

「及川さん、」

驚いた、こんな所で、しかもあの及川さんとばったり会うとは。スポーツ用品店なのだから偶然会うことは決して不思議なことではないのだが。

「青葉城西……」

隣にいた椎名も目を見開きながらもぽつりと呟いたそれは俺にも聞こえた。

「あれー?飛雄ちゃんいつの間にカノジョ?」
「な!ちっ、違います……」
「な〜んだ違うのかぁ、ザンネン。てか、キミ……」

及川さんは何か思い当たる事があるのか、目を細め、今度は椎名の方を凝視しながら考え込んでいた。そしてようやくその何かを思い出したのか手を叩いて及川さんは「そうだ!」と声を上げた。

「去年ウチの学校説明会で女子バレー部に体験来てたデショ!ほら、夏休みのさ!」
「……あ!はい!」
「俺、在校生と体験来てた中学生のゲームを偶々上から観てたんだよねー。あ、ちなみに俺もバレー部だから!へぇ、飛雄といるってコトは烏野に行ったんだ?」
「ええ、まあ。色々ありまして……」

それを聞いて椎名は少しばつが悪そうに苦笑いを浮かべていた。事情を知っている俺は口を挟むのもどうかと思ったので、ただ二人の会話を眺めることしか出来なかった。

「ふーん。それにしても小さいのにあのスパイクは凄かったね〜。まるで烏野のチビちゃんみたいだった。……だから俺ね、キミにトス上げてみたくなっちゃった」

それまで調子の良い物言いだった及川さんが声色を変えてそう言った。その目は普段のお調子者の及川徹ではなく、プレイヤーとしての、セッターとしての及川徹でもあり、まるで"変人速攻"を使う俺と日向に対抗するような眼差しだった。

「……まさか、あなたが影山の「椎名、俺これにする。それじゃ、及川さんこれで失礼します。行くぞ」……あ、え?うん……?」

椎名もなんとなく気付いたようだ。この人が俺が以前青城戦の前日に話していた"先輩"であることに。
及川さんの様子になんとなく危機察知をした俺は試しに履いていたシューズから履き替え、それを手にして会計に向かった。その様子を見た椎名も首を傾げながらも及川さんに軽く会釈をしながらいそいそと俺の後を着いて来た。

―――このまま喋らせて、及川さんにまで気に入られてたまるか、

そんな及川さんは何事も無かったかのようにいつもの調子で「バイバーイ」とこちらにひらひらと手を振っていた。
その時ふと昨日の日向の「それ、"ヤキモチ"っていうんだよ影山クゥン」というあの言葉が脳裏に焼き付いて離れなかった。


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