秘密の特訓 (3/3)

結局練習は夜の8時頃まで行った。彼らの辞書に"疲れた"という言葉が無いのか、休憩も挟まずに真剣な目差しでひたすら特訓を続けていた。(でも脱水症状になったらたまったもんじゃないからスポーツドリンクを買って無理矢理飲ませた)
日向がミスをする度、影山は日向を睨んでは「下手くそ!」「日向ボゲェ!」などと暴言を吐き、挙げ句の果てには苛々のあまり胸ぐらを掴み合っていたけど。
はあ、思わずため息が出る。彼らのそのエネルギーはどこから涌き出てくるのか。止める側のこっちの気持ちも考えてほしいものだ。先輩方も苦労してるのかな。

「まあ、取り敢えず。二人ともお疲れサマ」

まだ春なので少しばかり早いかもしれないが、頑張った二人に学校の近くにあった坂ノ下商店で先程買ってきたアイスを差し入れした。(色々あったけど)
「アイスだー!ありがとう椎名さん!」と嬉しそうで頬が緩んでいる日向に対し、影山からは「……おう」と返ってきただけで少し反応がイマイチだった。

「一応、今日二人の練習見てて思った事だけど、やっぱり日向のレシーブが問題アリ、かな」

早速パッケージを開けて、アイスを頬張ろうとしている日向に物申すと案の定ギク、と顔を強張らせたのが分かった。

「大事なのは基本姿勢だよ。日向の場合、まずそこが欠けてる。膝はしっかり曲げて腰は落とす。ボールを返す時も腕に力が入りすぎてそこだけ動いちゃってるからうまくボールが返せないの。だからもう少し力抜いて今度は身体全体を動かしてごらん?その基本姿勢を身体にしっかり覚え込んで、色んなパターンのレシーブを打つ練習をしていけば、段々とコツは掴んでいくから。だからそこの所、球出しとかは影山ヨロシク」
「おおー!椎名さん影山なんかよりアドバイス的確で断然分かりやすい!ありがとう!」
「ってめえ!!"なんか"ってなんだ!?」
「イダイイダイ!!ボーリョクハンタイ!!」

日向の発言を聞いて苛立ちを見せた影山は日向の頭をがしりと強く握った。もうこの際じゃれている二人は置いておこう。
日向はまだまだ発展途上だけど、彼は運動能力が高い。そこが武器になるし、レシーブさえ上手くなれればもっと……。影山はといえば、まさに"天才"だろうか。ボールのコントロール能力が抜群だ。あの様子からすると、サーブもスパイクもレシーブもそつなくこなしてしまうのだろう。出身中学が強豪校なだけやはりレベルが高い。だけど、影山も相手のレベルを考えてないで打ってる所があるから、そういった所の改善が必要なのかもしれない。より良いチームワークが要であるバレーボールのはずが、影山を見ていると一人で何とかしようとしていて、彼は個人戦でもしているのかと錯覚してしまいそうだった。もう少し周りを視る力と信頼が出来るようになれればいいのに。

「ほら!いつまでもじゃれてないでもう遅いし帰ろ!」

その考えを打ち消すように私は声を上げた。






「じゃあ、俺こっちだから!また明日!」

押していた自転車にまたがり、途中方向が分かれる日向は颯爽と帰っていった。雪ヶ丘町に住んでいる日向は毎日自転車で30分かけて学校に来ているらしい。しかも山越えがあるとか。あんなに練習頑張った挙げ句帰りはまた山越え、か。それなのに疲れた顔一つ見せない日向、凄いなあ。

「椎名」

そんな日向に感心していると隣にいた影山が私を呼んだ。

「ん?」
「お前、家ドコだ?送る」
「えっ!いや、でもすぐ近くだからいいよ」

振り返って返事をすると、律儀に彼は家まで送ってくれるとの事。しかし、時間も時間だ。更に彼の帰宅時間を遅らせる訳にもいかない。事実、家も決して遠くはないのでお断りすると彼はお決まりの眉間に皺を寄せた。

「練習付き合わせて遅くなったの俺のせいだし………なんだ。その……一人じゃ、あ、危ないだろ」
「!」

ちょっと驚いた。こっちの部活休ませて強引に練習付き合わせたの、少しは反省してたんだ。そうか、ちゃんと人の事を考える事も出来るんだ。ただ、それがバレーになると熱くなって周りが見えなくなって下手くそとか、ボゲェとか、つい暴言を吐いちゃって。不器用だけど本当は優しい人なんだと認識した。そんな影山の一面を知ることが出来て少し嬉しくなった。

「ありがと、影山。お言葉に甘える」
「……行くぞ」

その間、お互いとくに会話を交わすことは無かった。それどころかこの沈黙の時間が寧ろ心地好いと感じている。
しばらく歩いていると私の家が見えてきた。私ここだから、と言うと影山はおう、と返した。

「また明日」
「じゃあな」

影山の後ろ姿を見送ると、やがて彼は闇の中へと消えていった。
ふと空を見上げると月が夜を照らしていた。今夜は満月だ。

(2014.07.29)

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