絶対領域 (1/4)

彼らの放課後の秘密の特訓に付き合うようになってから早4日。日向のレシーブは日に日に上達していた。元々彼は運動のセンスが良いみたいだ。まだまだ未熟だけれど、あの日に比べれば幾らかマシなレシーブを上げられるようにはなってきたし、ラリーも続くようになった。アドバイスが効いたみたいで本当に良かったと思う。
そして、明日がいよいよ例の土曜日。ただ、気になる事が一つあった。今日の放課後練の時、途中私が日向と影山の分の飲み物を買いに席を外し戻ってくると、二人の顔が険しかったような気がした。その間に何があったのかは知らないが、戻った時に私と入れ替わりで長身の男子生徒二人組がその場を去っていく後ろ姿が見えた。私には分からないけれど、多分あの二人が関係しているのだと思う。
私が戻ってきたことに気が付いた日向は、何事も無かったかのように「ありがとう」とペットボトルを受け取って一気に中身を飲み干していたが、影山の方は明らかに様子がおかしかったのが目に見えていた。帰り道も影山とは一切話す事もなく家まで送ってもらっていた。初めて影山に家まで送ってもらったあの日の沈黙とは明らかに何かが違った。






「(あの二人、大丈夫かな)」

そんな事を考えつつ、自室のベッドの上で夏休み明けにある文化祭のライブで披露する曲のバンドスコアを眺めながら私は相棒のギターを弾いていた。ボディの色はチェリーサンバーストで指板の色はローズウッド、種類はテレキャスター。私の一番のお気に入りのギター。何よりもこのシャキシャキとした歯切れの良い音が好きなのだ。

―――――♪

ギターを弾いていると、スマートフォンの通知音が鳴り響いた。誰かからメッセージが来たようだ。名前を確認するとなんと差出人は影山だった。連絡先は互いに教え合ってはいたけれど、実際に連絡を取り合うのはこれが初めてかもしれない。メッセージアプリを開き、さらに内容を表示すると、さっきの事は何事も無かったかのように"今まで特訓付き合ってくれてさんきゅ"、"明日の試合負けねえから"と部活に関しての事が記されていた。その文面を見て私はほっとする。良かった、いつもの影山だ。
それに対しての返信文を考えたが、"頑張って"と返すのもどこか今までの頑張りを否定するような、そんな感じがしたので"応援してるよ"と当たり障りのない文面を送信し、画面を閉じた。さて、曲練再開だ。部活に出られなかった分をここで穴埋めしないと。
大丈夫、二人なら勝てる。






―――――♪

普段はほんの数秒で鳴り止むはずの着信音がこの時は一定のリズムで何コールか鳴っていた。電話だろうか。いつもはメッセージアプリ上でやり取りをするのが主流な為、電話が来ることはめったに無い。
目を覚ますと窓からは朝日が差していた。もう朝か。時計を見ると9時30分。もう少し寝かしてくれたっていいじゃないか、と内心では愚痴を溢しながらも今だ鳴ったままのスマートフォンを手に取るとそこには"影山飛雄"と名前があった。あれ、試合はどうしたのか。

「もしも……」
『椎名ボゲェ!!!!』
「は?!」

電話を受けるとまず第一声がこれだった。驚きのあまりスマホを落としそうになった。影山の怒声のせいか、一気に眠気が覚めたような気がする。うん、これはいい目覚まし時計だ………じゃなかった。
彼が怒っている理由が皆目検討がつかない。あれ、今日本当に試合なんだよね?

『今から試合なのに何で来ないんだよ!!』

何故彼は怒っているのか。それは私が試合を観に来ないということに不満だったようだ。そもそもの事だが、私は行くと言った記憶が全くない。

「行くって言ってないよ?」
『はぁ?!応援してるって昨日言ってたからてっきり来んのかと思った……』

……ぷっ。
それで項垂れている影山がちょっと面白くて吹き出してしまった。
昨夜のメッセージのやり取りを思い出す。そうか、影山はそう解釈してしまったのか。まったく、文字だけのやり取りだと誤解を生じやすい。便利だけど不便。影山みたいな人には今度からは電話でやり取りしたほうがいいのかもしれない。なんて私が少し考え込んでいると受話器の方から『何笑ってんだ…?』と怪訝そうに尋ねてきた。

「わかった、遅れるけど今から行くよ」
『!なるべく早くしろよ、』

そこで電話は一方的に切られてしまった。
さぁ、まずはベッドから起き上がろう。


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