絶対領域 (3/4)

「…………いいか日向」

試合再開のホイッスルが鳴った。その時、日向に対して影山が口を開いた。

「お前はただブロックの居ないとこにMAXの速さと高さで飛べ。そんで全力スイングだ。俺のトスは見なくていい、ボールには合わせなくていい」

試合を途中から観戦した私には状況の把握が出来なかったが、影山が放ったそれはあまりにも無理難題な内容だった。
ボールを見るな?無理に決まっている。ボールを見ないとスパイクは打てない。空振ることぐらい目に見えているはずだ。それに対しては日向も同様で、「ボール見なきゃ空振るじゃん!!」と影山に反論していた。それとも、何か秘策があるのか。
相手チームの金髪で眼鏡をかけた長身の彼は"王様"の「自己チュートス」などと影山を煽っているが、私にはこれも一体何の事なのか理解出来ず、首を傾げるばかりだった。そういえば彼、昨日の特訓の時に去っていった二人組の男子生徒のあの後ろ姿によく似ている。そしてそれは同じコートにいるそばかす君もだ。現に影山を煽っている事から、昨夜の日向と影山の険悪なムードも彼が引き起こしたのだろうか。
やがて日向は何かに納得したのか、「わかった」と言い、二人はコートに向き直っていた。
影山に目を配ると、一度深呼吸をし、目を閉じていた。やけに落ち着いているように見える。相手チームからサーブが打たれると静かに目を開け、集中力を尖らせていた。

「すごい…………」

それはクラスでは一度も見たことの無い姿の影山だった。目付きがまるで違う。それだけ彼はバレーに対しての思い入れが人一倍強いのだろう。
サーブが自分たちのコートに入ると影山の目の動きは一層鋭くなった。ボールの動きを逃すことのないように。そして日向が全力で走り出す、速い。
坊主の先輩がレシーブを受け、ネット前に辿り着いた日向は頂まで飛ぶ。

「(!跳躍力半端ない……!)」

"スパイカー"としての日向を見るのはこれが初めてだったので、スピードといい、高さといい、驚くばかりだった。そのがむしゃらになっている姿を見て、何か自分と似たようなものを感じた。
レシーブが上がると影山が頭上に両手を添え、トスを上げた。しかしそのトスが異様にスピードが速かった。いくらなんでも無茶すぎるトスだ、と思ったが、そのトスはなんと日向の手の平にドンピシャだった。

―――――バシン!!

「……!!」

相手コートにボールが打ち付けられる。一瞬の出来事だった。あんな速攻は今まで見たことが無かった。目で追うだけで精一杯だった。それは相手チームも同様で体が動けずに驚きの色を隠せないでいた。
しかし、セッター(影山)もセッターだ。スパイカー(日向)の最高打点をあの一瞬で捕らえ、更にはスパイカーの手の平にドンピシャのトスを上げるなんて、並大抵に出来るものではない。そして何よりも一番驚いたことは、

「日向……目え瞑ってたぞ……」

そう、相手チームの黒髪の部員が言った通りだった。それを聞いた周りもどよめきを隠せない。でも日向は確かにスイングする時に目を瞑っていたのだ。そこにトスが来ると信じて待っていたかのように。

「…………打ちたい」
「椎名…?」

隣にいた菅原さんが異変に気付いたのか、私に声を掛けてきたが、今の私に反応できる余裕など無かった。
もう一度スパイク、打ちたい。そんな欲求が出てきてしまった。あんな速攻を見てしまったのだ。誰もがやったことのない。今、この瞬間、確かにこの目で。
―――右手に触れる。あの時、あの場所で打ったあの感覚、プレイヤーとしての立ち位置だった自分を思い出す。私もあんな風に影山のトスを打ってみたい、打てるようになりたい。そんな衝動に駆られてしまったのだ。

「いい、な」

ちょっとだけ、羨ましかった。


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