絶対領域 (4/4)
あの速攻のおかげで試合は見事、日向・影山チームが勝利を収めた。良かった、これで二人とも部活が参加させてもらえる。影山もセッターが出来る。
二人がくしゃくしゃになった入部届を主将であろう人物に渡すと、受け取ってもらえたようだ。私の役割は此処で終わったんだ。
事態が一段落すると、バレー部員が一斉にこちらに寄ってきた。驚きのあまり一歩後ずさると、その中にいたある黒髪の男の人が私に声を掛けてきた。先程入部届を受け取っていた主将らしき人だった。
「お前が噂の椎名か。菅原から聞いたぞ。凄いスパイク打つんだって?それに影山からも気に入られてるんだろ?」
「いや、そんな!買い被らないで下さい。今日は試合見学させて頂き有難うございました」
「いやいや、出禁の間、日向たちの指導してくれたのはお前なんだろう?わざわざありがとな。俺はバレー部主将の澤村大地。椎名、マネージャーの方はどうだ、気は変わったか?」
日向と影山が固唾を飲む。菅原先輩もじっとこちらを見つめていた。私が次に発する言葉を待っているようだった。
「………私は、今でもバレーが好きです、とても。今の日向と影山の速攻を見て正直、もう一度スパイクが打ちたいと思いました。中学時代、背の低い私は空中での戦い方にこだわり過ぎていた。高い奴なんかに負けたくないと。ブロックをかわすだけならばただ逃げているだけだと思ったんです。でも、今日二人に教えられたような気がしました。ブロックをかわして決めたスパイクは何一つカッコ悪くなんかない、その一点だって立派な一点なのだと、地上での戦い方もあるのだと実感しました。だけど、私はあの時から新しい道に進む事に決めたんです。バレーを辞めて後悔はしていません。だからすみません、もう一度此処で言います。バレー部には入部出来ません」
頭を深々と下げると澤村先輩は「ハハッ」と笑っていた。
「芯のある奴だ。それだけ夢中なんだな、音楽に」
「!!」
どうしてそれを、と口にする前に澤村先輩は続けた。
「聞いたよ、3年の軽音部の奴らに。誘われてるんだろ?あいつらのバンドに」
「……はい」
入部して早々だった、3年生バンドから声が掛かったのは。この部の中で一番上手いと聞いていたバンドだった。ギターを始めてまだ半年ちょっとしか経っていない私だったが、未熟ながらもその実力が認められ、是非うちのバンドに入ってほしいと頼まれたのだった。軽音部には先輩後輩という上下関係にあまりこだわりがなく、気さくな先輩たちばかりで、何といってもあのバンドの雰囲気がとても好きだった。最早名前を呼ぶ時も先輩なんて付ける必要はないと言ってくれた。それは少し気が引けたが。
「頑張れよ。でもまだ諦めたわけではないからな」
「!あはは……ありがとうございます。私もバレー部の事、応援してます」
「あぁ」
澤村先輩と一通り会話を終えると、影山がこちらに寄ってきた。「試合お疲れさま」と声をかけようとしたがそれは影山によって遮られた。
「やっぱり俺もお前の事は諦められない!だから、覚悟しとけよ!」
影山は私に指差しながらそれを宣言した。すぐ後ろに立っていた日向もそれには賛同していたようで首をこくこく、と激しく縦に振って「椎名さんからスパイク教わる!」と叫んでいた。
ああ、月曜日からまた影山からのアプローチが続くのか。
それを考えると、ため息が出そうになったのは彼には内緒だ。
(2014.08.11)
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