09

 ギルドの床に書かれた魔方陣の中央にナツ、ラクサス、ハッピーそしてあたしは並んで立つ。それをぐるりと囲むように立った仲間たちに見送られるようにして、魔力が注がれた魔方陣が光始めた。
 魔方陣を用意している間に念話ができるウォーレンに持たされた小石のような魔水晶を握りしめる。これは念話はできないけれど、持つ人の大まかな位置がわかるのだと言っていた。これを持っていればどこへ飛ばされても仲間たちが駆けつけてくれる。
 魔方陣の光が収まり、自然に閉じていた目をあけると、あたしたちは前にも来たことのあるあの大きな湖の前に立っていた。

「ここは……って雨!」

 額に手を当て、手で雨除けしても体は守れるわけもなく、どんどん濡れていく。しかも目に雨粒が入らないようにしたところで強い雨の中で視界がよくなるはずもなかった。

「モニカ!」

 ナツが雨の音に負けじと叫ぶ。あたしも湖に向かって名前を叫んだ。モニカは絶対ここのどこかにいる。

「オイラ上から探してみる!」

 そう言ってハッピーが空に飛び立つ。あたしたちは湖が一番怪しいからとモニカの名前を呼びながら湖へ近づいた。その時、悲鳴を上げながら空からハッピーが落ちてくる。さらには地面に落ちたハッピーを追撃するように水が鞭のように打ち付けられた。

「大丈夫かハッピー!」

 すんでのところでナツがハッピーを救出し怪我はなかった。でもあたしは見覚えのある水の動きに体がすくむ。恐る恐る湖の上を見上げると、思った通りフードを被った男が水の柱の上に立っていた。

「あいつ……!」
「モニカ!」

 ナツが叫んだ。そこでやっとあたしは男がモニカを抱えていることに気が付く。ぐったりとしたモニカの姿に、カッと怒りで体が熱くなって、思わず拳を握りしめた。

「モニカ!」
「ラクサス!」

 ラクサスが名前を呼ぶと、意識を取り戻したのかモニカもラクサスの名前を呼んで応える。生きていたことにほっとした瞬間、男はモニカから手を離した。
 モニカはなすすべなく湖に落下し、真っ先に駆け出したラクサスは水に弾かれる。同じように湖に飛び込もうとしたナツやハッピー、鍵を手に持ったあたしも湖から溢れ出た水に押し流された。
 このままじゃ前みたいに何もできないまま、モニカが傷つけられるだけだ。あたしは水が引いてすぐに立ち上がり、握っていた鍵をかまえる。でも、湖に雷が落ち、その凄まじさにとっさに頭を庇いながらその場にしゃがみこんだ。

「ラクサス……」

 強い魔力をまとった雷が轟音を立てながら続けざまに何度も湖に落ちる。あたしは茫然と怒り狂うラクサスを見つめていた。
 前は確かにラクサスの雷で苦しんでいたはずの男はなぜか平然と立っている。確かに電気は当たっているのにその魔力は全て湖が吸収しているようだった。

「くそが!」

 ラクサスが悪態をつく横で負けじとナツも炎をまとった拳を振り上げる。けれど土砂降りの中というのもあってかいつもと同じ威力はなさそうだ。しかも湖からの水の柱に呑まれてしまば炎はジュッと音を立てて消え、ナツの魔力も湖に吸収されてしまう。

「ハッピー!とにかくあたしたちはモニカを助けるわよ!」
「あい!」

 ラクサスとナツが暴れているのを囮にあたしとハッピーは湖に近づいた。水面は雨と水柱によって激しく揺れ、モニカの姿はどこにも見えない。こんな荒れた中で泳げるかはわからなかったけど水の中に入るしかないと思った。
 あたしは靴を脱ぎ捨て、勢いよく水に飛び込む。波に揉まれたと思った次の瞬間には湖から放り出されていた。

「なんなのよもう!」
「オイラも潜れないよルーシィ〜!」
「情けないわよハッピー!」

 あたしとハッピーはお互いに鼓舞しながらなんども湖に向かっていく。ラクサスやナツは消耗し始めていてできるだけ早くモニカを助けて、見下してくるフードの男をぶっ飛ばしたかった。
 そう強く思っていても上手くはいかない。あたしとハッピーも何度も水に弾かれ、何度も地面に体を打ち付けているうちに息が上がり、だんだん体が重くなっていく。
 その時、不意にフードの男が高笑いを始めた。

「準備は整った!」

 あたしとハッピーは何が起きるのかと男を見上げる。けれど男が何かをする様子はなく、不思議に思ったのとほとんど同時に地面が大きく揺れた。あまりの衝撃に立っていられずあたしたちは地面に倒れる。
 地面が揺れるごとにバシャバシャと波打っていた湖の水が宙に持ち上がり、雨の中ゆっくりと形を変えていった。

「もうモニカは滅竜魔法を持ってないのに!」
「魔水晶だってラクサスが砕いたはずでしょ!?」

 宙に浮かぶ水竜の姿にハッピーとあたしは叫んだ。ラクサスとナツを振り返れば、2人とも険しい表情で水竜を睨みつけている。
 水竜は睨みつけてくる2人を見つめ返して、それからあたしとハッピーに顔を向けた。でも何かをしようとはせず、あたしたちを順にじっくりと見た後、フードの男に向き直った。男は何もしない水竜へ何かしようとしたのか、ただ怒鳴りつけたのかはわからないけど腕を振り上げた瞬間にぱくりと水竜に食べられる。

「食べたぁああ!?」

 ハッピーが叫ぶ。あたしも呆気に取られてただただ水竜を見つめていると、水竜は男を天高く放り投げた。

「投げたぁああ!!」

 またハッピーの叫びを聞きながら水竜の動きを見続ける。男はなすすべもなく空高く飛ばされ、そして落ちる。水竜は落下してくる男に向け大きく口を開き、咆哮を放った。