仕事先で別のギルドの人たちに絡まれた。なんでもソーサラーという雑誌に載っていた妖精の尻尾の記事を読んで弱そうだったから私を倒して名声を上げようという魂胆らしい。
私は呆れて何も言えなかった。それが怯えに映ったようで、絡んできた奴らはニタニタと気持ち悪い笑みを深くしていく。
原因になった雑誌は読んでいないため妖精の尻尾の記事がどんなものだったのかわからない。いつもなら誰かが何かを破壊したとか、そんなことばかりだ。
そんなことを考えながら襲ってきた奴らを返り討ちにしていると、ふとラクサスのことが頭をよぎった。記事を読んだかもしれない、もしかしたら今の私のように絡まれているかもしれないとも思えてきた。もし私の想像通りのことが起きていればラクサスは今頃怒り狂っているだろう。
私は急いで残りの奴らをぶっ飛ばし、大慌てで妖精の尻尾へ帰ることにした。
その道中でソーサラーを読んだ。新しくなったギルドのことが紹介され、新しく妖精の尻尾のメンバーになったガジルとジュビアが載っている。他にもいつものメンバーたちのバカ騒ぎも大きく取り上げられていた。
これはラクサスが怒り出しても不思議じゃない。ただでさえ今のギルドに不満を感じているのに。私の心配は大きく膨らんでいくばかりだった。
・・・
私の予想は当たっていたらしい。ラクサスは怒りにまかせて街中の広場でガジルを攻撃していた。レビィやジェットとドロイたちがどうしてここにいるのか不思議に思ったものの、無抵抗の相手を痛めつけているのは見ていられない。しかも雷の矛先はラクサスを止めようとしたレビィにまで向かい、私はとっさに駆けだした。
ラクサスの雷に私が追いつくことはなかった。けれど先ほどまで地に伏せていたガジルが飛び上がり、レビィをかばう。それを冷ややかに見つめながら再び帯電を始めるラクサスを見かねて、今度こそ私はレビィたちを背にラクサスの目の前に立った。
「やめて、ラクサス。こんなことしたってなんの意味もないでしょ?」
「ギルドがなめられてんだぞ、ザコどもによぉ」
「だからってギルドの仲間を……」
「もういいか?仕事があるんだ」
私の言葉を遮るようにしてガジルはそう言い、私たちに背を向けた。息は荒く、足取りは覚束ないけれどレビィの呼びかけもあしらって荷物を引きずりながら行ってしまう。
ラクサスはそんなガジルを見て何を思ったのか、無言のまま反対方向へ歩き出した。私は一瞬ラクサスを追うか悩み、結局ガジルを追う。
「ガジル!」
当然のように呼びかけは無視された。それでも私はガジルと並んで歩きながら腕に触れる。それもばしっとはね除けられ、鬱陶しいと語る目に睨まれた。
「ラクサスがごめんなさい。レビィをかばってくれてありがとう」
「オレにかまうな」
「少し回復させるだけだから」
もう一度、私はガジルの腕をつかむ。今度ははね除けられるより先に治癒魔法をかけた。
ガジルは自分の体が淡いオレンジ色に包まれることに驚いていた様子だったけれど、拒絶することなくおとなしくしてくれた。そのおかげでどうにか私にできる範囲で癒やすことができ、ほっと息を吐く。
「……こんなことしていいのかよ」
「え?ああ……ラクサスのことならたぶん大丈夫。これから仕事でしょ?頑張って」
まだ何か言いたげなガジルに手を振り、私は広場に戻る。レビィたちはギルドへ戻ったのか誰もいなくなっていた。
今度こそ私はラクサスを追いかける。ほとんど勘を頼りに走っただけだったけれど、奇跡的にラクサスに追いつくことができた。
「ラクサス!」
私の呼びかけにラクサスは足を止めた。それが嬉しくて私は笑いながら隣まで駆けていく。でもラクサスが私を見ることは全くなかった。
「雷神衆が帰ってくる」
追い打ちをかけるような、冷ややかなその言葉の意味に私は顔に笑みをはりつけたまま、体が動かせなくなった。
前にラクサスから聞かされていたため計画のことは知っている。けれどまさか、もうすぐ収穫祭だというのに実行するなんて考えてもみなかった。
「お前は教会で待機しろ。狩りは雷神衆がやる」
私の返事など待たずにラクサスは歩き出した。
同じギルドの仲間を戦わせることへの罪悪感、一緒にいるのが当たり前という態度への嬉しさ、傍にいられることへの喜び、ラクサスのこれからへの不安、何も知らないでいるギルドのみんなへの心配。色んな感情が混ざり合って、今何を感じているのかよくわからなくなってくる。
それでも、私はラクサスについて行く。ずっと前から、ラクサスのために強くなろうと決めていたから。
・・・
収穫祭の余興としてコンテストを行っていた妖精の尻尾のギルド内へラクサスの雷と共に私たちが現れると、思っていた通りみんなは突然のことに混乱したようだった。その混乱はエバによって女の子たちが石へ変えられてしまっていることもあるかもしれない。
「祭りはこれからだぜ」
そのラクサスの言葉にマスターが説得しようと声を張り上げる。しかしラクサスは聞き入れない。
石にされた女の子たちを人質に取ると場の空気が凍り付いた。ギルドのみんなは息をのみ、静かにマスターとラクサスのやりとりを見守っている。
「ルールは簡単。最後に残った者が勝者」
マスターの怒気がこもった眼光にも怯まず、ラクサスは口角をつり上げる。
「バトル・オブ・フェアリーテイル」
ラクサスがそう言い放った次の瞬間、大きな音を立てテーブルが吹き飛ばされた。ついにマスターの怒りが爆発したのかと思えば、拳を突き上げながら笑っていたのはナツだった。
「いいんじゃねえの?わかりやすくて。燃えてきたぞ!」
「ナツ!」
マスターが咎めるように名を呼ぶも、ナツは喜々としてラクサスに飛びかかってくる。ラクサスも小さく笑いながらそれを迎え撃った。
「落ち着けよ、ナツ」
勢いはあったものの、ナツはラクサスの一撃で倒れる。
その様子を尻目にエバたちが制限時間とフィールドを説明した。そんな私たちの態度についにマスターの堪忍袋の緒が切れ、「ふざけおってぇ!!」と咆哮のような怒鳴り声と共に巨大化する。けれどラクサスは慌てることなく、ここへ来たときと同じように雷と共に私たちを移動させた。雷神衆たちは街中へ、ラクサスと私は教会へ。
今夜はファンタジアなのに、と考えれば考えるほど気持ちが沈んだ。本当にこれがラクサスの、妖精の尻尾のためになるんだろうか。でも、私にはラクサスを止められない。
どうか最悪の結果にならないようにと祈りながら私は胸の前で手を組んだ。