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 空中に表示される戦闘の結果を食い入るように見つめた。私はひとり、ひとりと仲間たちが倒れていく様子を見ていることしかできない。
 同じギルドの仲間で戦いあい、すでに1時間半が経過している。その間にラクサスはギルドへ思念体を飛ばしマスターマカロフへマスターの座を譲るように迫っていた。
 もう残りはたった2人だ。このままマスターの座がラクサスに譲られるのだろう。そうすれば石にされた女の子たちは砂にはならない。けれどラクサスがマスターになれば妖精の尻尾は大きく変わってしまうのだろうと思った。

「あっ……」

 諦めのような気持ちが膨らんできていた時、空中の文字がエルザの復活を知らせた。さらにミストガンが参戦したことも表示される。

「エルザ復活にミストガン参戦か……オレを含めて妖精の尻尾トップ3がそろったわけだ」

 私と同じように空中の文字を見上げていたラクサスの声には嬉しさが滲んでいるようだった。

「やはり祭りはこうでなきゃな」

 ほどなくしてエバとエルザの戦闘が始まる。もしこれでエバが負ければ石化は解除されるはずだ。逆にエルザが負ければラクサスを止める希望がひとつ消えることになる。
 けれどエバにも傷ついて欲しくはない。私にとって姉みたいな人だ。だけど、でも、と頭の中がぐるぐるとする。

「クソが……」

 ラクサスの背筋が凍るような声にうつむいていた顔をあげると、エバが負けていた。思わず笑みを浮かべてしまった。けれどラクサスが拳を柱に叩きつける音が響き、はっとする。

「いつからそんなに弱くなったァエバァ!!」

 教会の中でラクサスの声が反響する。ラクサスの怒りの激しさに一瞬身がすくんだ。
 けれど今しかない。ラクサスを止めるのはエバが負け、女の子たちの石化が解除された今しか。

「ラクサス、もうやめよう」
「あ?」
「エバは負けた。もう人質はいない」

 私を振り返ったラクサスに睨まれ、握りしめた手が微かに震える。ラクサスの雷が空中を伝ってきているのが全身がピリピリとして言葉にもつまった。

「エルザが強すぎるんだ。オレかビッグスローが行くべきだった」
「なぜ戻ってきたフリード」

 そこへフリードが現れる。少しは張り詰めた空気が和らぐことを期待したけれど、そんなことはなくラクサスはフリードを鋭く睨み付けた。
 フリードは私と同じようにもう終わりだと、もうやめようと語りかける。しかしそんなフリードの真横ぎりぎりに雷が放たれた。

「ラクサス!?」

 雷はフリードに当たってはいない。それでも駆け出さずにはいられなかった。
 フリードの無事を確認し、ラクサスに向き直った瞬間怒りに満ちた視線に貫かれる。
 心臓にまるで爪を立てられたような痛みが走り、私は息を飲んだ。

「終わってねえよ。ついてこれねぇなら消えろ。オレの妖精の尻尾には必要ねえ」

 ラクサスは先程までの怒りを孕んだ目とは打って変わり冷め切った目に変わる。
 それでも私はもう一度こんなことはやめるようにと伝えたくて一歩足を踏み出す。けれどフリードに腕を掴まれ、止められてしまった。どうしてと振り返ってみてもフリードはなにも言わずただ小さく首を横に振る。私はそれがどうしようもなく悲しくてぐっと下唇を噛んだ。
 私たちがそんなことをしている間にラクサスは神鳴殿を起動させる。起動に気づいた私は教会の外へ飛び出し、空を見上げた。そこにはすでに無数の雷の魔水晶が浮かんでいる。

「どうだジジィ!次の人質は街の人間全てだ!!」
「ここまでやることは……」
「そうだよ、ラクサス。街の人たちは関係ないのに……!」

 教会の中へ戻りラクサスの背中へ声をかけても、ラクサスは私たちを見ることすらない。また張り詰めてきた空気に息がつまりそうだった。

「これァ潰し合いだぁ!どちらかが全滅するまで戦いは終わらねぇ!!」

 私はフリードを見上げる。フリードは険しい表情でラクサスの背を見つめていた。

「何をしているフリード。ビッグスローはまだ妖精狩りを続けているぞ」

 静かなラクサスの声が逆に恐ろしい。私は自身の腕で体をぎゅっと抱きしめた。

「おまえはカナとファントムの女をやれ。どっちもオレの妖精の尻尾にはいらねぇ。殺してもいい」
「そんなっ!」
「殺す!?今は敵でも同じギルドの…」
「オレの命令が聞けねえのかァ!!!」

 ラクサスの怒号にまるで雷が落ちたかと錯覚する。私は小さく悲鳴を漏らしながら身を縮めた。
 フリードはラクサスの勢いに驚いてたけれど、一度何かを諦めたように目を閉じる。そして再び目を開いたときには冷静さを取り戻しており、踵を返して教会の外へ向かい始めた。

「任務を遂行しよう。本気で殺る。後悔するなよ」

 そう言い残してフリードは姿を消した。
 ここまできたらもう後には引けない。ラクサスが止まる様子は微塵もない。

「モニカ、おまえはエルザをやってこい。エルザにも勝てねえようじゃお前も必要ない」
「……わかった」

 ラクサスは私に一瞥もせず、背を向けたままだった。
 それがこんなにも寂しい。こんなバカなことをしていて、酷いことを言われてもラクサスのことを嫌いになれないなんて私が一番のバカなのかもしれない。
 私は黙って教会を出た。目指すはエルザ、ではなく妖精の尻尾のギルドだ。
 ラクサスを裏切ることになる。嫌われるかも。そもそも好かれているかすらわからない。
 無性に泣きたくなって、でも泣かないように私はぐっと歯を噛み締めて走り続けた。


・・・


「マスターは!?」
「モニカ!?」

 ギルドの中にいたのはレビィただ一人だった。おそらく他のみんなは街中で戦っているんだろう。

「マスターは奥の医務室に……」

 レビィにお礼を言い、私は医務室へと入った。どうして医務室にいるのか不思議に思いつつも静かに部屋の中へ入る。
 扉の外では心配そうにレビィが顔を覗かせていた。その様子がかわいらしくて少しだけ笑ってしまったけれどベッドに横たわるマスターの顔色は悪く、ほとんど意識もないようだった。それを見てずっと笑ってはいられない。
 どうやらマスターの体調はかなり悪いようだった。

「マスター」

 私はベッドの横に膝をつき、マスターへ語りかける。
 マスターは何かと「ラクサスの相手をするのは大変じゃろ」と気にかけてくれた。私が「そんなことはない」と
否定するたびにどこか嬉しそうに笑っていたマスターを思い出す。

「ごめんなさい。やっぱり私じゃあラクサスを止められない。それに、」

 そこで私は大きく息を吸った。ずっと胸の中にあったものを吐き出すのは容易ではない。それでもマスターにはちゃんと言っておきたかった。

「私がラクサスに弱いギルドは嫌だって言ったの」

 あれは昔、ラクサスの父親がギルドから破門されたばかりの頃。仕事先で別のギルドの人たちに妖精の尻尾は身内も大切にしない、弱いギルドだとバカにされた。
 イワンのことは私も好きじゃなかった。でもそのことでバカにされるいわれはない。それに私の唯一の居場所である妖精の尻尾が弱いなどと言われてしまうのはとても嫌だった。

「ラクサスはイワンのことで怒っていたのに……私は余計なことを言って……」
「おぬしの…せいでは…ない」
「マスター!」

 マスターの声は弱々しい。それでも微笑んでくれて、私はついに我慢していた涙を堪えられなくなった。
 ポロポロと涙を溢しながらマスターの手を握る。この手で孫のラクサスにずっとくっついていた私のこともよく可愛がってくれた。
 マスターはもう一度私に笑いかけ、また眠りについた。私は涙をぬぐい、立ち上がる。やっぱりラクサスを止めにいかなくちゃならない。勝てないだろうことはわかっていたけれど挑まなくてはならない衝動のような、胸のざわつきに急き立てられていた。


・・・


「なんで親父を破門にしやがったァ!!」

 何年か前のファンタジア当日。私はマスターとラクサスのやり取りを部屋の隅でただ見ていた。とてもじゃないけれど口を挟める雰囲気ではなかった。
 マスターが何を言おうとラクサスは聞き入れず、マスターを睨み続ける。

「オレはいずれアンタを超える。親父の為じゃねぇ。オレがオレである為に……一人の男である為にだ」

 そういい放ち、ラクサスが部屋から出ていったあとマスターは大きなため息を吐き出した。そしてすぐに部屋の隅で縮こまっている私に苦笑を見せる。

「あいつはあんなどうしようもない奴じゃが、モニカが良ければ傍にいてやってくれんかの」
「でも、私は弱くて……」
「おぬしは自分が思っておるより強い。それにあんなバカな孫でも独りでいるのは寂しいもんじゃ」

 私は自信をもって頷くことは出来なかった。でもマスターの優しい眼差しを今でも覚えている。
 懐かしさに胸を締め付けられながら教会を目指して街中を全力疾走する。教会に近づくほどに爆発や何かが破壊されるような音が聞こえてきた。
 神鳴殿の発動時間も迫っている。その前に教会にたどり着けるかもわからなかった。そのとき、空中から爆発音が響く。とっさに上を見上げれば浮かんでいた雷の魔水晶が全て破壊された音だった。まるで花火のように見えるそれに思わず笑う。これでラクサスが街ごと破壊することはない。
 けれどこれでラクサスが止まるとは思えなかった。

「ラクサス!もうやめて!」

 私が教会に飛び込んだときラクサスは拳を突き上げ、魔法の詠唱をしていた。しかも戦っていたらしいナツは地面にうずくまっている。

「ようやく来たのかモニカ……どこに行ってやがった?」

 エルザを探しに行っていなかったことはバレてるらしかった。なんて答えようかと私が言葉をつまらせている間にもラクサスの手に強大な魔力が集まり、それがラクサスの全身を包んでいく。その魔力の強さに冷や汗が吹き出すのを感じながら私はナツの周囲に光の壁を作った。

「無駄なことを」

 ラクサスがせせら笑う。
 確かにこんなものじゃラクサスの雷を防ぐことなんか出来ないかもしれない。でも威力を少しでも落とせれば命は助かる。ナツに手が届かない今、私にできる最大限だった。

「レイジングボルト!!!」

 凄まじい威力の雷が落とされ、私は爆風に吹き飛ばれる。体を何度か床に打ち付けようやく顔をあげれば、教会の床は大きく抉れ、ナツの姿は無くなっていた。ただひとり、ラクサスだけが高笑いしている。
 私が作り出した光の壁が瞬時に破壊されるのは感じた。けれどここまでの威力だとは思ってもみなかった。

「消えてねえがな。コイツを消すのはオレの役目だからよォ」

 本当にナツは消し炭になってしまったのかと思いかけた時、ナツを抱えたガジルが姿を見せた。まだナツはぐったりとしているが、無事な姿に安堵し私も立ち上がる。
 床に降ろされたナツは邪魔をするなと騒いだものの、結局ガジルと共闘し、ラクサスを倒すと決めたようだった。それほどまでに今のラクサスは私たちの知っているラクサスからはほど遠く、理性がなくなってしまっている。

「ナツ!」

 私の呼び掛けにナツは素早く反応し、私が飛ばした光の球を受け取った。光は瞬く間にナツの体に溶けていき、ナツは淡いオレンジ色に包まれる。

「サンキュー!モニカ!」

 ナツの言葉に私は頷く。しかし直後のラクサスからの威圧感に私は震えた。

「モニカ…お前もオレの邪魔をするなら消えろ…」
「お前の相手はオレたちだ!ラクサス!」
「無視してんじゃねえ!」

 ラクサスが私へ雷を放とうとした瞬間、ナツとガジルが同時にラクサスへ飛びかかった。