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 ナツとガジルが2人でラクサスを追い詰めていく。教会の中を激しく破壊しながら戦う三人に割って入ることもできず、私は飛んでくる瓦礫を避けながら3人を見ているしかなかった。
  ついに火竜と鉄竜の咆哮がラクサスを吹き飛ばした。辺りは一面粉塵で覆われ、瓦礫がぱらぱらと崩れる音だけが響く。やっと終わったかと思いきや、ラクサスは土埃の中で立ち上がり笑っていた。

「2人合わせてこの程度か?滅竜魔導士が聞いてあきれる」

 まだ立ち上がるラクサスにナツとガジルは驚き両目を見開いていた。
 そんな2人へ見せつけるようにラクサスの八重歯は鋭くなり、二の腕の辺りにまるで竜のような鱗が浮かび上がる。私はラクサスが何をしようとしているのかを察し、ナツたちの前に飛び出した。

「雷竜の……」
「水竜の……」
「お前たちも滅竜魔導士だったのか!?ラクサス!!モニカ!!」

 私の背後でナツが叫ぶ。今はそれどころではなく、私は思いきり息を吸った。

「「咆哮!!」」

 ラクサスと私の咆哮がぶつかり合い、その衝撃でナツとガジルが床に倒れたのがわかった。
 徐々に私の咆哮が押され始め、私はどうにかラクサスの咆哮を天井に反らす。教会の屋根は吹き飛んだものの直撃を避けることはできた。
 それでも指先に痺れを感じてそれを振り払うように私は拳を握りしめる。

「お前ごときがオレの力に勝てると思ってんのか?」

 ラクサスの言葉には答えず、私は両腕に水をまとう。

「水竜の」
「お前はオレに勝てねぇ!!」
「翼撃!!」

 たやすくラクサスは私の攻撃を避け、逆に私へ電撃を放つ。私は体をよじりそれから逃れ再び咆哮を放った。
 今度はラクサスへ直撃する。けれどラクサスは少しよろめくだけで膝もつかない。

「終わりか?」

 ラクサスはほくそ笑みながら私へ歩み寄ってくる。それに気を取られ、私は地面を這ってきた雷に気がつかなかった。
 足元からまともに雷をくらい、倒れた私の胸ぐらを掴み、ラクサスは片腕で私の体を持ち上げる。息苦しさに呻いた次の瞬間には私は宙へ放り出され、そこに雷竜の咆哮が襲ってきた。

「モニカ!!」

 ナツの焦った声で名前を呼ばれるのを聞いた。
 痺れた体で宙に投げ出された状態では避けることも、防御することもできず、私は正面から咆哮をあびた。





 じわじわと痛みが襲ってくる。固い地面の冷たい感触もようやく肌に伝わってきた。しかし痺れた体は思うように動かない。
 視界と聴覚も少しだけ回復しどうにか周囲の情報が頭に入ってくる。どうやら咆哮に巻き込まれたナツとガジルも同じ状況のようだった。

「まだ生きてんのかョ」

 まだ焦点が定まらない視界でラクサスを見上げる。
 ラクサスは「全て消え去れ」と叫びながら魔力を集め始めた。前にも感じたことのある強大なその魔力は"妖精の法律"だ。

「やめて…ラクサス…」
「よせ……ラクサス」

 私の声も、ナツの言葉もラクサスには届かない。そこへ、レビィが教会に飛び込んできた。レビィは涙ながらにマスターが危篤であることを告げる。その言葉に私たちは息を飲んだ。
 ベッドに横たわっていたマスターの顔が頭に浮かぶ。そこまで体調が悪いようには見えなかった。けれど私が話していた時も体は辛かったのだと思う。
 ラクサスも衝撃だったのか、一瞬動きが止まった。しかし次の瞬間にはラクサスの口角は大きくつり上がる。

「丁度いいじゃねえか。これでこのオレがマスターになれる可能性が再び浮上した訳だ」

 幼い頃のラクサスの顔が頭によぎる。ラクサスはマスターを慕っていたし、私もかわいがってくれるマスターが自分のおじいちゃんのようで大好きだった。今も心の奥底は変わっていないと思っていたのに。

「妖精の法律!!発動!!」

 私たちにはラクサスを止められず、光に包まれた。


・・・


 思わず閉じていた目をゆっくりと開く。周囲は土埃が立ち込め、呼吸をすると咳が止まらなかった。
 ナツたちも同じように咳き込んでいて、どうやら教会にいたみんなは無事のようだ。

「どうなってやがる!あれだけの魔力をくらって平気な訳ねえだろ!!」

 ラクサスが私たちの様子を見て吠える。その場の私たちにも理由はわからず、ただ困惑し顔を見合わせた。

「ギルドのメンバーも町の人も皆無事だ。誰一人としてやられてはいない」

 答えられずにいる私たちの代わりにそう言ったのはボロボロな姿のフリードだった。フリードは荒い呼吸を繰り返し、壁にもたれかかりどうにか立っている。

「そんなハズはねえっ!妖精の法律は完璧だった!!」
「それがお前の心だ、ラクサス」

 今の話は本当だろうか。私はラクサスが妖精の法律で誰も傷つけなかったことが無性に嬉しくて、勝手に涙が零れた。
 フリードはラクサスはマスターから力や魔力だけでなく、仲間を思う心も受け継いだと語る。私もなにか言いたかったのに嗚咽をこらえるのに精一杯だった。

「魔法にウソはつけないな、ラクサス。これがお前の本音という事だ」

 ラクサスは自分自身に驚いているのか、目を見開き、歯を食い縛りながら自分の胸を見下ろした。そしてぐっと拳を握りしめる。

「違う!オレの邪魔をする奴は全て敵だ!敵なんだ!!」
「もうやめるんだラクサス。マスターの所へ行ってやれ」
「そうだよラクサス。もう帰ろう」

 フリードの続いて私は涙ながらにそう言った。けれどラクサスに一蹴される。

「オレはオレだっ!ジジィの孫じゃねえ!ラクサスだっ!ラクサスだぁあああーーーっ!!」

 そのラクサスの叫びに私は顔を伏せる。周囲の視線や評価、プレッシャーに悩んでいたラクサスを隣で見てきたから。私がもっと、なにかしてあげられていればこんなことにはなっていなかったのかもしれない。

「思い上がるなバカヤロウ。じっちゃんの孫がそんなに偉ぇのか。そんなに違うのか」

 そう言いながらナツが立ち上がる。

「血の繋がりごときで吼えてんじゃねえ!ギルドこそがオレたちの家族だろうが!!」

 はっとして顔を上げる。すでにナツは拳に炎をまとい、ラクサスは拳に雷をまとっている。
 お互いに雄叫びを上げながら殴りかかるも、殴られたのはナツだった。ナツは地面を転がりもう一度立ち上がるり、またラクサスの拳によって倒れこむ。それでもまた立ち上がろうとするナツに見ていた私たちは息を飲んだ。

「ギルドはおまえのモンじゃねえ……よ〜く考えろラクサス……」
「黙れェ!!」

 怒鳴り、ナツを力任せに蹴るラクサスに私は思わず飛びかかった。体の痛みも忘れ、ただ拳を握り、腕に水をまとう。

「もうやめて!ラクサス!」
「ザコどもがオレに説教たァ100年早ェよ!!」

 ラクサスはナツを蹴り飛ばし、瞬時に私に向き直る。私は勢いのまま腕を振り下ろそうとしたけれど、握り込んだ拳をラクサスに鷲掴まれてしまった。
 腕を引こうにもラクサスの力には叶わず、胴体に蹴りを入れてもラクサスはびくともせず、私はなすすべもなく体へ電流を流し込まれた。
 自分の悲鳴に混じってレビィとフリードが私の名前を叫ぶのが聞こえた。体は痺れ、いたるところが痛み、自力で立つことも出来ない。そんな私はラクサスに投げ飛ばされ、ナツのすぐ傍に落ちる。辛うじて気絶することはなかった。

「モニカ……」

 ナツに呼び掛けられ、どうにか視線だけをそちらに向ける。
 私の反応を確認したナツは再び立ち上がった。どんなに痛め付けられても立ち上がるその姿に思わずゾクリとする。

「跡形もなく消してやるァ!!」
「よせ!ラクサス!今のナツたちにそんな魔法を使ったら……」

 フリードの制止を無視してラクサスは強大な魔力を放つ。槍のような形の雷はまっすぐナツと私の方へ向かってきた。
 立ち上がったはずのナツはその場から動けず、崩れ落ちるように膝をつく。私は力を振り絞り、体を起こすとナツを抱き込んでその場に伏せた。
 ぎゅっとナツを抱き締め強く目を閉じる。ほんの少しでもナツだけは助かるようにと魔力を振り絞り治癒魔法をかけた。しかし衝撃はこない。代わりにガジルの呻き声が聞こえ、私は目を開いて体を起こした。ナツも私と同じように体を起こし、ガジルを見る。
 ガジルは自らを避雷針として攻撃を受けたようだった。満身創痍のガジルはナツへ「行け」とたった一言伝える。その言葉にナツは立ち上がり、一直線にラクサスめがけて駆け出した。

「おのれェエエエっ!!!」

 ラクサスもさすがに体力と魔力を使い果たしたのか一方的にナツの攻撃を受けるだけだ。そしてついに、ナツの滅竜奥義をくらいラクサスは倒れる。
 ナツはラクサスが倒れた後、勝利の雄叫びを上げ続けた。