神さまどうかあなたのことは信じていたい

 気が付いたら海岸に立っていた。あまりのことに状況が飲み込めず私は海の先を見つめ、空を見上げ、自分の周囲を見回した。
 海の水は透き通っていてとてもキレイだし、空も晴れ渡っている。近くに建物はないけれど遠くにヨーロッパを彷彿とさせる城壁のようなものに囲まれた街が見えた。

「え?」

 思わず口から困惑の声が漏れる。
 自分の意志で来たわけではない。本当に気が付いたらここにいた。寝た記憶もなく、腕をつねってみても痛い。夢じゃないとわかったところで状況は何もわからなかった。

「おーい、お前そんなところで何やってるんだ?」
「あ!あの私……え、え!?」

 困惑する私の様子に近寄ってきた人たちも困惑している。でも宙を飛んでいる小さな女の子に驚かないという方が無理だ。

「お前大丈夫か?何かあったのか?」
「落ち着いて」

 あまりにも私が不審な動きだったのか、近寄ってきた小さな空飛ぶ女の子と、金髪の美少女が心配そうにそう言ってくれた。でも私としては突然知らないところにいて、知らない人に話しかけられている状況に混乱し続けている。

「あの、あの、気づいたらここで。でも家にいたはずで、知らないとこで、えっと」
「ゆっくり話せって!おいらたち、ちゃんと聞いてやるから!」
「すみません……ええっと……」

 それから私はどうにか知らないうちに、知らない場所へ来ていたことを伝えた。この世界のことを全然知らないので説明も下手くそだったし、話を聞いてくれた2人はそのせいで私のことを記憶喪失だと思ったみたいだった。

「お前、自分の名前はわかるのか?」
「はい、なまえです」
「よかった!おいらはパイモン!」
「私は蛍」

 蛍ちゃんは美少女だし名前までかわいいんだ、なんてことを考え出す。現実逃避でもしていないとやってられない。夢ならいいのに。

「それにしても記憶喪失か。何も覚えてないんだもんな……」
「ここから近いのは……」

 2人が私について話し合ってくれている。冒険者だとか、ファデュイ?だとかよくわからない言葉が飛び交っているのをぼんやりと聞いているしかなかった。やっぱりこれといってピンとくる単語はない。

「よし、なまえ。とりあえずフォンテーヌに行こう!」
「一番近いから何か手がかりがあるかも」

 私はパイモンの言葉に目を見開いた。ついに知っている単語が聞けたからだ。

「フォンテーヌ!?」
「なんだ知っているのか!?」
「知ってる?のかな?でも聞いたことはあって」
「じゃあ行こう」

 私はパイモンと蛍ちゃんに連れられてフォンテーヌの街を目指して歩き出した。


・・・


 街にたどり着くころには私はへとへとになっていた。蛍ちゃんは涼しい顔をしている。さすが美少女は体力すら桁違いらしい。

「ここがフォンテーヌだ!さっそく誰かにお前のこと聞いてみようぜ」
「え、公開処刑では……」
「でも手がかりを探さないと何もできない」

 蛍ちゃんのごもっともな言葉に私は渋々頷いた。何も知らない私はどこに助けを求めるべきかもわからないのでもうこの2人に頼るしかない。
 さっそく歩き出した2人に着いていこうと足を踏み出す。それと同時に視界の端に見覚えのある人が映った。

「え!?」

 突然のことにバランスを崩し、私はそのまま地面に倒れる。満足に受け身も取れなかったので打ち付けた膝や手がじんじんと傷んだ。
 それでも、痛みよりも気になるその人を呼び止めたくて体は地面に伏したまま顔を勢いよく上げる。その人はまだその場にいて、呆然と私のことを見ていた。

「おいおい!どうしたんだ?」
「大丈夫?」

 パイモンと蛍ちゃんが私に駆け寄る。その人から目が逸らせないまま、私は心配してくれている2人へ満足に返事もできずいた。

「フリーナ」

 どうにか体を起こし、たった一言名前を呼ぶ。夢の中の人だと思っていたのに、今は目の前にいる。そのことにどうしようもなく胸がいっぱいになって涙が溢れてきた。
 フリーナは名前を呼ばれたことに気付いたのか、弾かれるようにして私に駆け寄ってきた。そしてまだ地面に座り込んだままの私の目の前に膝をつき、存在を確かめるように指先で頬に触れてくる。

「触れる……」
「フリーナぁ」
「本当にここにいるんだ……」
「会いたかったぁ」

 嗚咽を上げながら泣く私に、フリーナが勢いよく抱き着いてくる。受け止めきれずに仰向けに倒れながら、私もフリーナを抱きしめ返した。

「君に、なまえに会えるなんて思わなったよ」
「フリーナぁ……!やっとほんとにあえたぁ!」

 フリーナの顔は見えないけれど、ぐすぐすと鼻を鳴らしているのが聞こえる。私たちは道端に寝ころんだまま抱きしめあい、しばらく泣いていた。
 ようやく涙が落ち着いた時にはパイモンも蛍ちゃんも困惑しきっていて、私も突然道端で泣いているという状況を理解して羞恥心で爆発するかと思った。

「お前たち知り合いなのか?」
「それより人が集まりだしてるから移動しよう」
「そうだな。ほら、立てるか?」

 パイモンと蛍ちゃんの言葉に頷き、まだ私の腕の中で泣いているフリーナを立たせる。そのまま私はフリーナを肩を抱いたまま、蛍ちゃんたちに連れられて歩き出した。

「僕はずっと君に会いたかった」
「私も。だから会えてすっごく嬉しい」

 この世界がどこなのか、私の世界はどうなったのか。考えると不安になるけど、フリーナがいてくれるなら頑張れそうだ。
 私はついフリーナの涙に濡れた頬にキスして、笑った。