宴会を飛び出してきた倶利伽羅から提案を聞かされた燭台切は、困ったように倶利伽羅の後ろにいる鶴丸へ目を向けた。鶴丸はどうしようもないというように首を横に振る。燭台切は鶴丸の隣にいる太鼓鐘にも目線を送り助けを求めたが、太鼓鐘も困ったように眉を下げ曖昧に笑うだけだった。
「えっと、伽羅ちゃん酔ってるのかな?」
「酔っていない」
「でも今日はもう遅いし何かあったら……」
燭台切のその言葉にはさすがに倶利伽羅も口を閉じた。また襖ごと倶利伽羅が弾き飛ばされる可能性もある。それだけでなくもっと恐ろしいことが起きるかもしれない。まだ宴会のため起きている刀剣たちがいるとはいえ、酒で酔っていては頼りにはならないだろう。
「じゃあ、せっかくだし今日はみんな一緒に寝るのはどうだ?」
太鼓鐘の明るい声に倶利伽羅は顔を上げた。鶴丸も「それはいいな」と笑う。燭台切たちの部屋はそこまで広くないが布団を敷き詰めれば、太鼓鐘が短刀ということもあり五振りで横になることは出来そうだった。
「よし!そうと決まれば布団を取りに行くぞ伽羅坊!」
「……ああ」
燭台切が制止する前にと、倶利伽羅は素早く部屋を出た。鶴丸も足早に倶利伽羅の後をついて歩く。
2振りが自室から持ってきた布団を抱え、再び燭台切の部屋に入ると既に女体の大倶利伽羅の隣に燭台切の布団が敷かれていた。倶利伽羅と鶴丸は持ってきた布団を空いている場所へ敷くとその上に座る。予想していた通り、燭台切の部屋はみっちりと布団が敷かれることとなった。
「俺はみっちゃんの布団で一緒に寝ていいか?」
「いいよ」
「やった!」
観念したのか燭台切はふにゃりと笑い、布団に入ると片腕で掛け布団をめくり太鼓鐘を招いた。太鼓鐘は笑顔を輝かせながら燭台切の布団へ潜り込む。
鶴丸、倶利伽羅、女体の大倶利伽羅、燭台切、太鼓鐘の順で並び、それぞれ横になる。燭台切が部屋の電気を消してからもおもに鶴丸が話をしていたが、大倶利伽羅の寝息につられるように太鼓鐘が眠りにつくと鶴丸も話すのをやめ目を閉じた。全員が口を閉ざすとまだ宴会を続けている刀剣たちの声が遠くから微かに聞こえる。
「ねえ、伽羅ちゃん」
ぽつりと小さな声で名を呼ばれた倶利伽羅は寝返りをうち、顔を燭台切の方へ向けた。燭台切は二振りの間で眠る大倶利伽羅を優しげに見つめている。
「君がさっき言っていたこと、試してみようか」
「……いいのか?」
「うん。鶴さんや貞ちゃんや伽羅ちゃんが一緒に居てくれるし……それにやれることはやってみたいんだ」
燭台切は視線を動かし真っ直ぐに倶利伽羅を見た。片目だが意思のこもった強い視線に応えるように倶利伽羅は頷く。以前のような黒い淀みはどこにもない。ただもう一度大倶利伽羅に目覚めて欲しいと、強い意思が見てとれる。
「本当は僕が出来たらいいのだけど……君に任せるよ」
「ああ、任せておけ」
そう言いながら倶利伽羅は右手を隣の大倶利伽羅へ伸ばし、そっとその手を掴んだ。ひんやりと冷たいその手から弱々しくも確かに大倶利伽羅の神気が感じられる。倶利伽羅はその神気を自分の中に引き込むよう念じながら目を閉じた。
真っ白な空間に倶利伽羅は女体の大倶利伽羅と向かい合って立っていた。大倶利伽羅は梅の花をつけた枝を右手に持ち、睨むような鋭い目で倶利伽羅を見つめている。とっさに倶利伽羅は逃げられぬように大倶利伽羅の左手を掴んだ。
「離せ」
「話を聞け」
掴まれた腕を振り払おうとする大倶利伽羅に詰めより、倶利伽羅は睨み返した。するとどこか怯えたように大倶利伽羅は一歩足を引く。
「光忠がお前を待ってる」
苦しそうに顔を歪めた大倶利伽羅は目を梅の枝へ向けた。倶利伽羅も枝を見るがそれに何があるのかはわらない。もう一度、倶利伽羅は大倶利伽羅の目を真っ直ぐ見る。枝を見ている大倶利伽羅と目線は合わない。だが逸らすことなく倶利伽羅は口を開いた。
「なぜ、お前は目覚めない。顕現するだけの神気はまだあるだろう」
大倶利伽羅は顔を歪めたまま一言も話さなかった。少しの間、二振りに沈黙が落ちる。しかし痺れを切らした倶利伽羅は大倶利伽羅が梅の枝を持つ右手を掴み、ぐいっと二振りの顔の前まで引いた。
「これはなんだ?何を気にして……」
目を見開いている大倶利伽羅と、梅の枝から感じることの出来る微かな神気に倶利伽羅は絶句した。大倶利伽羅は強い力で倶利伽羅の手を振り払う。梅の花びらが数枚ひらりと舞った。
「これは光忠の……お前、光忠から霊力を奪っているのか?」
「……好きでやっているんじゃない」
そう言って大倶利伽羅は倶利伽羅の腕を振り払うと踵を返し、駆け出した。とっさに倶利伽羅は腕を伸ばすが届くことはなく、逃げられてしまう。せめて、と倶利伽羅は遠ざかる背に向かって叫んだ。
「光忠がお前を待ってる!!」