創傷の一方通行

出会いは本当に偶然だった。
彼は目の前の彼女を見て、自分は超高校級の幸運であったか。なんてダンガンロンパファンとしての考えが出てきていたなあ、なんて数週間前の出来事を思い出す。


「先生、また怪我しちゃった」

へらり、という効果音がつきそうな程の笑顔を浮かべる彼は頬を染めており、指先には真っ赤な血がしたたっていた。

恥ずかしそうにか細い声を出す彼とは対照的に目の前の女性は本を読んでいた手を止めて、溜息を吐くがその溜息には嫌な感情な何一つない。

「本当、⬛︎原君は怪我をしやすいですね。
取り敢えず患部を綺麗にしてください」

テンプレ通りの言葉を吐きながら彼女は箱から絆創膏を取り出す。少年が切った箇所を洗浄すると、名字は絆創膏を患部に貼り付ける。

「えへへ……ありがとう、ございます」

「(笑い方、女の子みたいだな)」

心でそんな言葉を漏らすが、失礼だと感じてかぶりを振った。彼はそんな歳不相応な顔をしている彼女を可愛いなどと感じている。


「⬛︎原君って、毎日ではないですが結構な頻度で保健室に来ますよね。怪我しやすいんですか?」

彼女の問いに口を覆って考えていた⬛︎原だったが暫く待っていれば口を開き、更に頬を染めながら、はい……、などと小さな声をあげた。

「なにより名字先生に、会いたい……から……」

「⬛︎原君────」

彼女の諸目もろめから逃げるように彼は帽子のつばを下げながら視線を彷徨わせる。見方を変えれば告白にも聞こえる言葉を受け止めた本人は、少年に近づく。

彼女が近づくことに恥ずかしさと怒鳴られるのではないかと言う僅かな恐怖心に彼は思わず体が強張ってしまう。

「大人を揶揄からかうのはやめたほうが良いですよ」

額を軽く小突かれた少年は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。クスクスと笑う先生の声に意識を引き戻された彼は茹でだこのように顔を真っ赤にした。