俺達は生徒会役員であって、けしてアイドルではない。
だがこうして顔を出す度に悲鳴に似た歓声を上げられると、俺達はファンサービスしにでもきたのかと錯覚しそうになる。
同じ学園に通い同じ寮で生活してるってのに、このバカ野郎どもはどうしてここまで喜べるのか不思議だ。しかも同性に。呆れるしかねえよ。
無理矢理引き摺られるようにして入った食堂は相変わらず騒がしく、疲労感を悪化させた。
そんな周りとは対照的に珍しく静かな隣へ視線を移せば、口から半分魂が抜け出たような顔をした会計が目に飛び込んでくる。今だけはコイツの気持ちが痛いほどよくわかり、涙が出そうになった。
「これだけ人がいると探すのも一苦労ですね」
「転校生、どこ、いる?」
一方、心身ともにグッタリな俺達を引き摺る副会長と書記はやけに上機嫌であった。それこそ鼻歌でも歌い出しそうな程に。
群がる生徒達を一切気に留めることなく歩み続けた二人――と、引き摺られる俺達――は、生徒会専用スペースまで来ると足を止める。
副会長の顔がこれでもかと輝いた。
「旭(あさひ)!」
「お、春樹(はるき)! 遅かったじゃねーか!」
副会長の名を呼ぶ聞きなれない声に反発するかのごとく、反射的に後方にダッシュするも
「二人とも。逃げちゃ、だめ」
あっけなく書記に捕まる。ちくしょう。つうか二人ってお前もかよ、会計。
逃亡することすら許されず、ついに始まった食堂イベント。
あれだけ回避しようと奮闘したのにもかかわらず、結局ここまで来てしまった運のなさを呪いたい。ここは小説かゲームの世界なんじゃねえかと疑心暗鬼になりそうだった。
とはいえ、ここで絶望していてはシナリオ通りの展開になるだけだ。まだ始まったばかり。今からでも遅くはねえ。なんとしてでも転校生徒のキスシーンだけは回避しなくてはならない。
ただでさえ男というだけで鳥肌もんなのに、貞夫――貞子の男版だから――相手にだなんて正気を疑う。
(絶対に、確実に、死んでもキスだけは回避してやる……ッッ!!)
燃え上がる闘志。
闘うことを決意した俺は書記の手を振り払い、書記の斜め後ろに立つ。
ふるふると震えながら俺の腕にしがみつく会計を余所に、先ずは相手の情報を得ようと睨みつけるように転校生へ目を向けた。
我が物顔で平然と俺達の席に座る転校生は実に王道主人公らしい姿をしていた。
もっさい頭に野暮ったい黒縁眼鏡。そんなザ・オタクと言わんばかりの顔立ちに対し、首から下は今時らしく適度に着崩しており、顔と体のバランスが取れていない。
どうせ変装するならもっとなんかあっただろうと言いたくなる。わざとか。わざとなのか。
また不自然極まりない姿をした転校生は、一匹狼と言われる不良と一年で可愛いと有名な少年を両サイドに携え、飯を食っていたらしい。そこがまたなんとも王道主人公らしくゾッとした。
食堂イベント必須アイテムであるオムライスも残念ながらこの場にある。まあ、食ってるのは転校生ではなく不良なんだが……その辺の相違点は物語にとって些細な点でしかないらしい。修正のきく範囲ってヤツか。
ここまで条件が揃ってしまえば食堂イベントが発生してもしかたないといえる。キス回避は思った以上に難しいのかもしれない。慎重にいかねえとな。
ごくりと唾を呑みこみ、強く握りこんだ拳。
転校生から全体に視野を広げれば、射殺すように転校生を睨みつける周囲と、周囲を無視し和やかに言葉を交わす連中が見えてくる。書記も楽しそうに尻尾を振っていた。子犬のように震え俺にしがみついていたはずの会計ですら、気がつけば俺から離れ会話に交じっている。
どうやら転校生がブリーダーというのは間違いないらしい。
ヤツへの警戒心がさらに強まった頃、突如全員の視線が俺に集まった。
「こちらが生徒会長です」
言葉から察するに、俺は転校生に紹介されたらしい。
「ふーん、アンタがな……」
値踏みされるような纏わりつく視線がうざったいことこの上ないが、下手に口にして殴りかかられても困るので押し黙る。
視線が逸れるまで眉間にしわを寄せつつ耐え凌ぎ数分、転校生は何故か首を捻ったのち、可愛い系男子とコソコソやり取りを始めた。
「なんか……ねーか?」とか「ごめん、うちの……は、……だから……」とか意味のわからねえ会話が聞こえてくるが、やはり下手な動きは起こさない方がいいだろう。
会話が終わるまでじっと待てば、「よし、頑張れ!」と可愛い系男子に活を入れられた転校生が俺の正面で仁王立ちした。
「な、なんだてめえ……」
じっと見つめられ、こちらも負けじと睨み返す。何が起きても俺は負けねえぞという意思を込めて。
すると転校生は目線を下に逸らす。勝ったと思った。
が。
「春樹には悪いけどよ。俺には……守らなきゃなんねー約束があるんだ」
「は――?」
そしてぼそりと呟かれた謎の言葉。
その台詞に一瞬意識を持っていかれ、その隙を突かれてしまった。
しまった。
そう思った時にはもう遅い。
いとも簡単にぶれる視界。
なにかに引っ張られたかと思えば、唇に感じる違和感。
「よーし! 食堂イベント達成!」
「ふぉおおおおおおお!!」
硬直する俺とは対照的に、ガッツポーズをする転校生。と、幸せの絶頂というような非常に気持ち悪い笑みを浮かべる可愛い系男子。
――オイコラ、ちょっと待ちやがれ。