「夕飯、何がいい?」
「オレ、カレー!」
「パスタがいいですね」
「馬鹿言え、肉だろ肉。ステーキ食いてえ」
適当に会計の話を流したのが悪かったんだろうか。
知らぬ間に俺が会計と一緒に寝てやる話になっており、それに何故かキレ出した副会長が「僕も寝ます!」とか叫び出し。「じゃあ、俺も」なんて書記も便乗し。
たまたま居合わせた顧問まで「面白そうだから俺も参加してやろうじゃねーか」と、無駄に上から目線で混ざってきやがり――当初の予定であった自室で一人静かにコンビニ弁当を突くというプランは消え、みんなで仲良く夕飯を食う流れになっていた。
当たり前のように俺の部屋へ流れ込んだ連中は、部屋の主の許可を取ることもなく各々勝手にくつろぎ始め、夕飯のメニューについて話しだす。
文句を言うタイミングも気力も失った俺は、諦めて雑誌に目を向けた。
「……会長は?」
「味噌チャーシューメン」
書記の質問に考えることもせず即答できたのは、ちょうど見ていた雑誌に載っていたラーメンが美味そうだったからである。金持ちの回答じゃねえとかしるか。俺はどちらかといえば庶民派なんだ。
そして俺の意見は絶対だ。
こくんと頷いた書記は一人喚く会計を引きずりながら「材料、買ってくる」と部屋から消える。
どうでもいいことだが、書記達が向かったのは寮の右隣にある、俺が弁当を買う予定だった『コンビニ』だろう。あそこはコンビニというのは名ばかりで、ほとんどスーパーと変わらない規模を誇る。故に食品類の品揃えもすごいのだ。
また、話の流れでわかると思うが、夕飯を作るのは書記の役目である。本人曰く趣味で覚えただけらしいが、その作る料理は普通に美味かったりする。
料理の出来栄えを期待し、再び雑誌に目を落とせば感じる視線。
同時に「僕も料理覚えましょうかね……」という呟きも聞こえたが、なんとなく恐怖を覚えたので気のせいにした。
− − − − −
「そういや、転校生ってどんなヤツなんだよ?」
夕飯も食い終えたし、さっさと帰るかと思いきや未だ居座る四人。本気で泊まっていくつもりらしい。ふざけんな。
何度帰れと言っても聞かない連中に頭を悩ましながらも、なんだかんだ一緒になって対戦ゲームをしていれば、思いだしたように顧問が口を開いた。
なんでも顧問の担当クラスに転校生が来るそうで、証明写真から絶対問題児だろうと気になってんのだとか。
普通担任なら顔くらい合わせてるもんだろとは思ったが、顧問が授業中だったこともあり、転校生は理事長室に通された後そのまま寮に向かったため叶わなかったらしい。
この質問に対し、会計は
「男版貞子!!」
と声を若干震わせながら答え、副会長は楽しそうに
「ふふっ。外見はアレですけど、中身はとてもいい子でしたよ」
と答える。
会計は放置するとして、副会長の反応がものすごく気になった。
コントローラーを操作することすら忘れ、テレビ画面から勢いよく視線を移動する。まるで物語のキャラクターのような、幸せそうな顔をした副会長が目に飛び込んできた。
「なん…だと……、」
思わずボロリと手からコントローラーを落とす。
隣で「やったー! カイチョーに勝った!」と騒ぐ会計がどうでもよくなるくらい、俺の頭の中は副会長のことでいっぱいだった。
だというのに、副会長はさらに爆弾を投下する。
「僕、転校生のこと気に入ってしまいました」
俺達に向ける冷たい笑みでも、他人に向ける作り笑いでもない、自然すぎる微笑み。
「へえ。テメーがそこまで言うとはな……面白そうじゃねーか」
「……興味、ある」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる顧問と、興味津津な書記。
会計は空気を読まず未だに騒いでるが――これは、ヤバい。冷や汗が背中を伝った。
副会長が転校生の案内から戻ってきた時、俺の部屋に泊まる泊まらないで揉めた為、結果がどうであったかわからないままだった。
それ以降も自ら転校生の話題は出してこねえし、意外と好感度は上がらなかったのでは、という期待があった。
だが実際は――
「明日、食堂で会う約束をしてるんです。その時に紹介してあげますね」
副会長から紡がれた悪意のない言葉は、俺にとって死の呪文だったと言える。
俺が籠城した意味とはなんだったのか。