予想外にもほどがある展開だった。
だが考えてみれば納得のいく展開でもあった。
季節外れの転校生の登場――それすらも故意的に引き起こされたということだろう。
通りで危惧していた王道ストーリーに沿った展開になるはずである。
最初から仕組まれていたイベントなんだ。そりゃ起きて当然だろう。
「ふははははははははははッ!!」
「カイチョーが壊れた!? 男にキスされた事でついに壊れた!?」
「ああああ旭っっ!!? こ、ここここれはどういうことですかッ!? ぼ、僕だってまだしたことないんですよ!?!?」
「あばばばば食ったもんがががががうぷ、っ!」
「副会長、落ち着く! 転校生、吐きそう……!!」
周りの一般生徒はもちろんのこと、騒ぎの中心にいる連中も困惑しているようだった。
怒り、妬み、嘆き――様々な叫び声の飛び交う食堂はこれ以上ないというほど騒がしい。
だがそんなことはどうでもよくなる。
ただただ、笑いが込み上げてくる。
今までの俺の頑張りは一体なんだったのかと。
「はははははは……チクショウッ!!」
泣きたい。ものすごく泣きたい。
どんなに足掻いたところで物語の修正力(物理)には敵わないというわけか。
何をしようが、いずれはコイツに絆されてしまうということなのか。
(――いや。いや、違う。違うぞ。そんなことはない。そんなことあるわけがねえ!)
これは物語を再現しようとしているだけだ。
ゲームの世界でも小説の世界でもない。あくまでも現実世界(リアル)。
たしかにキスイベは強制的に消化されてしまったが、今後も同じように無理矢理イベントを引き起こせるかといえば、そんなことはないだろう。
相手がわざと王道ストーリーを展開しようとしていることがわかったのだ。その分、こちらも対処がしやすくなる。フラグ回避も簡単になる。
つまり、俺にも勝機はあるということだ。
「……ククク、」
まさかのキスイベ完遂に思わず動揺してしまったが、このままでは俺が転校生に負けたと思われてしまう。それはつまり俺が簡単に攻略できる対象だとヤツ等に認識させるということ。それだけは絶対に避けなくてはならない。
これしきの事で屈する俺ではないことを、全力でコイツに教えてやらなくてはいけない。
「ククッ、ククククク……!!」
「か、会長がまた笑いだした!? どどどどどうしよう、本格的に壊れたかも!?」
「な、なんてことしてくれたんですか旭!? 会長がこんな風になってしまうなんて、どう責任とってくれるんです!? ――は! いや、違いますね。こ、ここは僕が責任とって会長をもらうとか……っ? それはふふふ、素晴らしいですねふふふふふ」
「副会長! 副会長、落ち着く! 顔! キャラ……ッ!!」
絶望感はもう綺麗さっぱり消え失せた。
かわりに徹底的にフラグを折ってやろうという、全力で迎え撃ってやろうというやる気が俄然湧いてくる。
周りが相変わらずギャアギャアうるせえが、そんなものは気にならない。
「――この俺にキスするとはいい度胸じゃねえか転校生」
先ずはこの程度で俺が動じていないことをアピールすることが先決だろう。顔をあげた俺は余裕あり気に転校生を「はっ、」と鼻で笑ってやった。
だがしかし、この俺が話しかけてやってるというのにも関わらず、何故かソイツは蹲ったままこっちに目を向けることすらしない。というか聞いているのかすら微妙だった。
非常に、ひっっっじょうに面倒だがここはフラグ回避のためだ。仕方なくゆっくりと転校生に近付いた俺は、無理やりソイツの顔を上に向かせる。何故か知らんがものっそい蒼い顔がそこにあった。いや、なんでだよ。なにがあったよ。
ま、まあこっち見て聞いてりゃどんな顔してようが同じだろう。そういうことにしておけ。
まさかの状態に少しばかり動揺してしまった俺だったが、気を取り直してギロリと転校生を睨み付け、聞き取れるようにはっきりとこう告げやった。
「覚悟しておけ」
と。
嫌な予感がした俺はそれだけ言い残し、転校生からすぐ離れ踵を返す。
もうこの場に用はない。余計なフラグを立てないためにも、ここからさっさと退散するべきだろう。他の役員? んなもん放置だ、放置。
耳をつんざく程の悲鳴が一層食堂を埋め尽くす中、俺は一人その場を後にする。
いや。
しようとしたんだがな。
「オイてめぇら、食堂で何騒いでやがる」
人が何気格好良く決めて帰ろうとした途端、聞き覚えのある声が辺りに響き渡った。
食堂の外。つまりは俺が向かおうとしたその先から、何人かの生徒が出現する。
その誰もが腕に腕章をつけており、そこにはでかでかと「風紀」の二文字が記されてあった。
――風紀委員会。
それは強姦や暴行など、様々なもめ事を鎮圧することが主な仕事という、武闘派集団のことだ。
強姦だとか風紀が何故武闘派集団なんだとか、まったく意味がわからねえと思うだろうが、その辺の説明は省かせてもらう。まあ王道設定通りなヤツ等だと思ってほしい。
とにかく風紀の姿を目にした生徒たちは次々に口をつぐみ、あれだけ騒がしかった食堂は嘘のようにシンと静まり返る。
そして新たな面倒事の予感に、俺は思わず倒れそうになるのであった。