01:スタートは肝心である


 王道ストーリーで最初に攻略キャラとして登場するのは副会長というのが鉄板である。
 というか、俺はその流れしか見たことがない。
 ちなみに内容はこうだ。
 案内役として現れた副会長が主人公に笑顔で話しかけると、彼は副会長の笑顔が偽物だということに気付き、「気持ち悪い」やら「無理して笑うな」とかそんなことを言う。自分の作り笑顔を素敵と言われたことはあっても、指摘されたことは一度もなかった副会長はそれをきっかけに彼に興味を持つ――といった感じだ。
 実はこの学園の副会長も俺たちの前以外では猫を被ってるヤツであり、王子という見た目に相応しくいつもニコニコと笑顔を浮かべている。
 素を知っている俺としては正直、気持ち悪い以外の何物でもない。
 そしてこうも思う。
 王道ストーリーの副会長も現実の副会長もそうだが、そんなに作り笑いがしたくねえんならしなきゃいいだろうがと。
 大体、いちいち相手の笑顔が作りものだとか本物だとか気にするバカいるかってんだ。例え気付いても相手に失礼になる指摘をするヤツなんぞそうはいない。
 でもって本当の自分を知ってほしい気付いてほしいと思うのは勝手だが、そう思うなら自分からもっと他人に近付く努力をしろといってやりたい。自ら周りを遠ざけてる人間がまったく、なにほざいてんだか。

 まあ、そんなことはともかくだ。

 副会長と転校生のフラグがいくら立とうと俺には関係ねえし興味もねえんだが、このフラグを折ることが俺のフラグ回避に繋がるのではと俺は考えた。
 副会長は主人公と出会ったのち、食堂に他の生徒会メンバーを引き連れて彼に会いに行くというシーンがある。
 そしてそれは会長と主人公の初対面の場であり、会長が公衆の面前で主人公の唇を奪うという場面でもあった。
 それを回避するためには
・俺が食堂に行かない
・話しかけない
・キスをしない
だけなんだが、食堂イベントが強制イベントかもしれないうえ、転校生から話を振られ、さらにハプニングでキスという可能性もある。
 これを安全に回避するためには根本からどうにかするしか方法はない。
 そこで俺が考えたのが、案内役を副会長ではなく会計にするという方法だった。

− − − − −


「えええー!! 会長それはなくない!? オレに案内とかできるわけないじゃーん!」

 意識を取り戻した会計が全力で首を横に振りだしたのは、「おい、会計。てめえが行け」とそう告げてから数秒後のことであった。
 だがしかし、これは俺の人生に関わる重大な問題であり、コイツが否定したところで取り下げるような気はさらさらない。

「異論は認めねえぞ。……つうか、理事長室に連れていくだけだろうが。サルだってやりゃできるだろ」
「いや流石にサルは無理でしょ!? てかてか! オレってば仕事まだ終わってないんだよねっ! ここは副会長とかに任せた方がいいと思うんですけどー?」
「なんで僕が……普段遊び呆けているくせに、そういうところで仕事を持ち出すのはやめてもらえません?」
「……さっさと行くべき」
「ちょっ!? なんかみんなして酷くない!?」
「酷かねえよ。普段ろくに仕事もしねえてめえが悪い。終わらねえ仕事はあとでどうにかするんだな」
「そ、そんなあああ! 会長のバカああああ! いじめっ子おおおおお!!」

 なんとでも言いやがれ。
 叫びながら生徒会室を飛び出していく会計を鼻で笑いながらコーヒーを胃に流し込む。
 副会長を会計に変えたことで物語にどう変化が出るかさっぱりわからないが、それでも王道ストーリーに沿うよりはいい結果が出るに違いない。

 フラグを回避するためには副会長の役割を誰に押し付けるのが最良か。
 それを考えた時、最初に候補に挙がったのは風紀のヤツ等だったが、残念ながらアイツ等が俺の言うことを聞くわけがないのであきらめるしかなかった。
 ならば誰を選べば正解か。
 俺はまず論外だし、書記は転校生に懐くという、副会長と同様の展開になるような気がしてならないので除外するしかないだろう。
 となれば必然的に案内役は会計に決まる。
 チャラ男な会計ではあるが、ホラーの類が苦手なヤツだから、見るからに不気味な転校生をどうのこうのしたいとは流石に思わないだろう。
 転校生は見た目に反して天真爛漫な性格というパターンが王道だったりするが、第一印象の影響でそれさえも不気味に感じる可能性だってある。ギャップを感じる場合もあるだろうが……その時はその時だろう。
 とにかく、副会長に気に入られたという事実もないため、面白い子として自ら積極的に近付く可能性は限りなく低い。
 チャラ男として機能はせず、ただのヘタレとして案内役をまっとうしてくれると俺は信じている。

 ――だから会計よ。
 もしも転校生を気にいったなんぞ抜かしやがったら、ぶち殺してやるから覚悟しておけ。

「アイツが戻ってきたら休憩にでもするか」
「ええ、そうですね。さっさと仕事を終わらせてしまいましょう」
「……ケーキ食べたい」

 そして俺達は、どこかで会計がガタガタと肩を震わせているともつゆ知らず、普段通りに今日のノルマをこなすため各自黙々と作業を進めるのであった。



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