それは一向に帰ってこない会計を放置し、他のメンバーと仲良く休憩にとケーキを頬張っていた時のことであった。
「会計が倒れた…だと……?」
保健医から内線で告げられた言葉に俺の目の前が真っ白になっていくような気がしたが、だがこんなところで意識を飛ばしてるわけにはいかないと根性で持ち直す。
――落ち着け。そして考えろ、考えろ俺。
深呼吸を1つ。
目をつむり、俺にとっての最善を尽くすため頭をフル稼働させる。
だがその前に状況整理をしておくべきだろう。
本来、副会長パートであるはずのところを会計に無理やり押し付けたわけだが、会計は転校生と会うなり貧血で使用不能、保健室行きとなった。保健室まで警備員と一緒に会計を運んできたらしい転校生は現在、保健室で待機中である。
そして会計の代わりに保健医が転校生を案内してもいいのだが、手が離せないため代わりを生徒会から用意してほしいとのことだ。
ふざけんじゃねえよ、この野郎。
「……で、保健医はああ言ってましたが、どうします会長?」
「ああ、そうだな……」
とはいったものの、誰を送ればいい?
なんとしても副会長行きだけは阻止せねばなるまい。かといって俺は行きたくない。変なところでフラグは立てたくねえしな。
ならば消去法で……と思い、書記にちらりと目を向ける。
「……?」
ダメだ。というか無理だ。
基本無口のコイツを送ったところで案内役が務まるはずがない。
例えできたところで犬みてえなコイツだ。すぐ懐くに決まってる。
何故なら主人公は立ってるだけでワンコキャラをも懐かせる王道界のムツゴロウ的存在なのだ。転校生が違うとは言い切れない。
やはりここはプライドを捨て、頭下げてでも風紀に頼むべきか。
しかし相手はあの風紀だ。例え頭下げたところで聞くわけがないだろう。聞いても「土下座するっつうんなら聞いてやっても良いがよぉ」ぐらい言ってきそうである。……願い下げだクソ野郎。
が、しかし、これではあとがない。
授業中の顧問なんぞに頼めるわけもねえし。
八方塞がりとはこのことをいうのか。
なんて頭を抱えた出した俺にしびれを切らしたのだろう。
「誰も行く気がないなら……仕方ありませんね。僕が行きましょう」
と、副会長がため息をつきながら、そんなことを抜かしたではないか。
「ちょ、てめ……ッ、待て! てめえは行くな!!」
「は? なんでですか? 普段、雑用はすべて僕に押し付けてくるくせに、何をわけのわからないことを
「うるせえ! それとこれとは別なんだよ! いいから行くんじゃねえぞ。てめえだけは絶対ダメだ。てめえにはここに残ってもらわねえと俺が困るんだよ!」
――え、?」
生徒会室から優雅に退出しようとする副会長を慌てて引き止めれば、目を丸くしたソイツと目が合う。
若干顔が赤くなってる気がするのは何故だがわからねえが、そんなことは今はどうでもいい。
これは俺の明るい未来がかかってるんだ。フラグ回避のためにも行かせてたまるかよ。
「い、いきなりそんなこと言われても困るんですが」
「うるせえよ、俺も必死なんだ。てめえが行ってもしも転校生のヤツに惚れちまったらと思うと、俺は――」
「かい、ちょう……」
これ以上動かれでもしたら大変だ。掴んだ手首にぐっと力を入れ、真剣さが伝わるよう副会長に目を向ける。
一方副会長は視線を彷徨わせた後、困ったように俯いた。
「……頼む。俺のためにも行くのはよせ」
「っ、」
そしてしばしの間。
なにやら考え込むように口元に指を当てていた副会長は顔を上げ、俺と目を合わせた。
「会長の気持ちはわかりました。ですが……やはり、ここは僕が行くべきでしょう」
「な、!?」
「書記に任せても案内役は務まらないと思いますし、それに僕も会長には――いえ、なんでもありません。とにかく僕が行かなくてはならないんです!」
「っおい……!!」
これはイケたと思ったからこそ、断られた時の驚きはすさまじいものだった。
放心状態だった俺の手をほどいた副会長は小走りして生徒会の扉を開け――もう一度こちらを見る。
「安心してください。会長が思っているようなことにだけはなりませんから」
どこか恥ずかしそうに言葉を紡いだソイツは「では行ってきます」と残だけし、生徒会室を後にする。
バタンと扉の閉まる音がやけに大きく聞こえた気がした。
「つまり強制イベントだった、というのか……」
会計は戦意喪失。副会長は奮闘の甲斐もなく、意味のわからねえ言葉とともに消えてしまう。
このまま王道ストーリー通り進めることになってしまったら今後の俺はどうなる。
食堂イベントも強制なのか。ファーストキスゲットも強制なのか。さらには会長エンドまでもが強制なのかどうか。
(……ちくしょう。一体俺はどうすりゃいいんだ……)
お先真っ暗。
まだ本当に王道ストーリー通りに進むと決まったわけでもねえのに、今の俺には最悪な結果しか想像できなかった。
だからこそ頭を抱えることしかできない俺には、書記が「会長のタラシ……」と呟いていたことなんてわかりもしなかったのだ。