04:副会長の迷い/副会長


 たしかに会長のことは好きです。
 好きですけど、告白しようなどと思ったことは一度もなく、今までずっと想いを隠し通してきました。
 その理由は会長がノンケだから、嫌われたくないからと多々ありますが、一番は告白が無意味なことだとわかってしまっているからでしょうか。

 許嫁なんてものはいませんけど、いずれ僕は親の決めた相手と結婚することになるのだろうと思っています。選ぶ権利なんてもの、僕には与えられていないんです。
 本人に確認を取ったことはないですが、これまでの流れをみるにそう考えてまず間違いはないでしょう。この男ばかりの学園に入学させられたのも、名門校だからというだけでなく、勝手に彼女を作ることがないようにするためでもあることを僕は知っていますし。

 僕が会長に想いを告げようとしないのは、そういう家庭の事情があり、たとえ両想いになったとしても結局別れる羽目になってしまうということがわかっていたからでした。相手が女性ならまだしも、同性なんて絶対認められるわけがないですしね。
 そういうわけで、どうせ無意味になってしまうのなら現状を維持した方が僕にとっての最善だと思い、いずれ会長への想いも薄れるだろうと、これからもずっと隠し通していこうと心に決めたのです。

 いえ、決めたはずだったんですが――


「どうしたらいいのでしょうか……」

 何度も思い返す生徒会室での出来事。
 後悔と自責の念で胸はいっぱいになり、他のことを考える余裕すら今の僕にはありませんでした。
 あまりにも唐突な出来事に取り乱して舞いあがって、あの時は喜びが勝ってしまいましたけど、本来、あそこは喜んで良い場面ではなかったはずです。
 この想いを心の奥底にしまっておこうと決めたのは、報われないことがわかっていたからです。それなのに僕は取り柄だったはずの冷静さを失って、決意まで忘れて、さらにはあのように余計なことまで口走ってしまいました。
 生徒会室を出てからやっと自分のミスの大きさに気付いた僕は、転校生の案内役を自ら買って出たのにもかかわらず、仕事をこなせるほどの余裕が一切ありませんでした。
 それでも、ただでさえ会計のミスで転校生と理事長を待たせてしまっているのですから、僕まで彼らを待たせるわけにはいきません。
 だからこそいずれ気持ちも落ち着くだろうと転校生のいる保健室に向かった僕でしたが――やっぱり、普段通りに振るまえなかったようですね。
 いつものように浮かべたはずの作り笑い。
 それがどうも上手くいかなかったようで、転校生に紛い物だと見抜かれてしまいました。そのうえ、彼には僕が悩んでいることもわかってしまったようです。

 言葉とともに吐き出された盛大なため息。
 一向に元気を取り戻さない僕に見かねたのでしょう。右隣から「あんたなあ」と呆れた声が聞こえてきました。

「いくらなんでも落ち込みすぎだっつの。つーか、恋愛ぐらい別によくねーか? 許嫁もいねーんだろ? 親なんて認めさせりゃいいだけだろーが」

 続けてそんな男前な言葉を投げかけてくるのは、現在案内中の転校生本人です。
 暗く大人しそうな外見をしていますけど、中身は真逆で明るく活発的。そして兄貴肌なところもあるようでした。
 そんな性格だったからこそ、僕が悩んでいることを知った転校生は話を聞いてやるなんて言ってくれたのでしょう。
 僕は面倒事を回避するために普段猫を被ることで周りと距離を取ってますから、素で接することができる人間は生徒会メンバーくらいしかいません。
 かといって会計や書記なんかに相談できるわけがないですし、そんなこと僕のプライドが許しません。会計なんて屈辱でしかないですしね。
 その点、転校生は出会ったばっかりというのもあるせいか、素直に話すことができました。好き勝手にきゃあきゃあ騒いで僕の交友関係にまで茶々を入れるような輩とは違い、本心から僕を心配してくれた彼ならきっと真剣に聞いてくれるだろうと思ったんです。

「そう簡単に認められるものでしょうか?」
「ばっか、そんなモン熱意と根性の問題じゃねーか。相手が認めるっつーまで粘ればいいんだよ。本当に好きなヤツのためならそれくらい簡単だろ?」
「それはそうかもしれませんが……」

 転校生のアドバイスは本当に男らしいというか、僕では考えつかないだろう意見ばかりで新鮮でした。
 それでもすぐに「そうですね」と肯定することができず、言葉を濁してしまいます。 
 そんな嫌気がさすような返答しか思い浮かない僕でしたが、転校生は気にもせず背中を押し続けてくれました。

「好きになっちまったモンは仕方ねーんだから、隠すなんてことすんなよな。可哀相じゃん、自分がさ。大体、付き合っても告白してもねーのに、そんなわかりもしねー先のことまで考えてどうすんだあんた?」

 そこまで言いきった転校生は深呼吸をした後、「それによ、」と言葉を繋げます。

「そーゆー障害のある恋の方がなんか燃えてくんだろ? いいじゃん、先のことなんて。そんなん気にしないでアタックしまくれよ。そうすりゃ例え玉砕したとしても恋してよかったとか思うんじゃね? なにもやらないで後悔するより、やって後悔した方が俺は良いと思うぜ」

 髪と眼鏡で表情は見えませんが、ニッコリとほほ笑んでいることはわかりました。
 その笑顔はどこか眩しくて、ああ、僕もこうなれたらなと心の底から思いました。
 温かい笑みと温かい言葉。
 その2つが体中に沁み渡って、不安が少しずつ消えていくような、そんな錯覚に襲われました。

「そう……かもしれませんね、」

 たしかに僕は、今まで後ろ向きに考えすぎていたのかもしれません。わかりもしない結末に怯えて、自分の気持ちと向き合おうとしませんでした。
 ――まだ、不安は残ります。
 それでも転校生の言葉を聞いて、少しくらい前向きになっても、自分の気持ちに素直になってもいいんじゃないかと、そう思えるようになっていました。

「……少し、頑張ってみようと思います」
「おう! 頑張れよ!」

 気合を入れるようにバシリと叩かれた肩は少々痛かったですけど、なんだか嬉しさが込み上げてきました。
 ふと、こぼれ落ちた笑み。
 久しぶりに上手く笑えたような、そんな気がしました。




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