そもそも案内役を会計にしたことが不味かったのか。やはり嫌でも風紀委員に頼むべきだったのだろうか。
ベストを尽くしたはずが、結局王道ストーリーに沿った展開へ。
なにがどうしてこうなった。意味わからん。
とはいえ、いつまでもグダグダと考えてては埒が明かない。後悔するだけ無駄だ。呻いたところで過去は変えられまい。
最悪の事態にしばらく頭を抱えていた俺だったが、頭を切り替えようと席から立ち上がる。
「――とりあえず、会計(げんきょう)をシメに行くか」
切り替え切れてないとか、そんなもん知るか。
− − − − −
「ちょ、ちょっと待って待って待ってよ待ってくださいよー!!」
「待てと言われて待つ奴いるか馬鹿。いいから黙って頭を差し出せよオラ」
「ぴぎゃあああ!!」
所変わって場所は保健室。
この俺を悩ませた分際で、のんきにコーヒーを啜(すす)っていた会計に鉄槌を下したのは、つい先程の出来事である。
殴ったことで一先ず苛立ちが治まった俺は、会計をベッドから蹴落とすと代わりにそこへ腰を掛けた。
「で、なにがあった?」
一方、頭をさすりながら、ぽかん、と口を開ける会計。
「なにって……なにが?」
俺の右手が再び唸った。
「痛ッ! ちょっと痛いよ!? なんで殴るの会長のバカぁあああ!!」
「馬鹿はてめえだ! わかれ! 案内中てめえがなんで倒れたのか説明しろって言ってんだよ!」
いちいち言わねえとわからんのかこの野郎!
キャンキャン喚くバ会計に、再びイライラしてきたのは言うまでもない。
だが、このままではいつまで経っても本題に入れないだろう。
深呼吸一つ。グググと拳を握り締め、代わりに口を動かした。
「……それで。転校生との間になにがあった?」
保健室に訪れたのは、単に会計を殴りたかっただけじゃない。それだけならわざわざ出向かずとも、生徒会室に帰って来た会計をボコればいいしな。他の目的があったからこそ、俺はここにいる。
そしてその目的とは転校生の情報を得るため。今後のフラグ回避のために敵のデータはできる限り早く把握しておくべきだと考えたからだった。
「転校生はどんな野郎だった? てめえが倒れたのはソイツがなにかしたからなんじゃねえか?」
会計が転校生と会うなり貧血で倒れたとは保健医から聞いている。それでもただ顔を合わせただけで倒れたとは考え難い。
いくらこいつがホラー嫌いで、いくら転校生がホラーな見た目をしていてもだ。流石にそれだけで倒れる訳がない……と思いたかった。
そんなわけで転校生が会計になにかしたんじゃねえかと考えている俺は、眉間にしわを寄せたまま問い掛ける。
すると何を思い出したのか、ぶわっと効果音付きで目を潤ませた会計。
「ちょっとねえ、聞いてよカイチョー!!」
飛び付いてきた会計がキモすぎて、無意識に今度は右足が唸った。
――そして。
脅し気味に改めて会計から話を聞き出した俺だったが、倒れた理由のクソくだらなさに苛立ちを通り越して頭痛に悩まされることになった。
なんで保健室に運ばれたのが転校生じゃなく会計なんだよと、ものすごくツッコミたいが、その気力すら今はない。バカか。アホなのか。死ぬのか。
こんなしょうもないことが原因で、正規ルートに入ってしまったとかふざけんなと思う。
とはいえ、過ぎたことはどうにもならねえし、転校生の情報が入ったからとりあえず良しとするしかない。
「ねー会長聞いてる!? ホント怖かったんだよ、転校生! 貞子張りのホラー顔だったんだよ!?」
「あーそうだな」
「門飛び越えようとするとか有り得ないでしょフツー!? 結局激突してるし! でもなんかピンピンしてて意味不明!」
「そりゃよかったな」
会計の話を適当に受け流しつつ、再び思案する。
情報によると転校生はやはり王道ストーリーの主人公的存在らしい。根暗な見た目とは裏腹に中身は天真爛漫。しかも頭を殴打しながらもケロッとしているあたり、不良系主人公の可能性がある。
だが別にそれなら変装する必要なくねえか?
不良系主人公は敵チームに所属してる生徒会に存在がバレないように変装するのがセオリーだ。しかし、俺達生徒会は族でもねえし、風紀にだってそんな家名に泥を塗るようなことをする馬鹿はいない。
やはり見た目の問題か? 理事長に強要されたからか? それともまた別の原因が……?
なんにせよ、転校生が主人公枠と確定したのだ。徹底的にソイツを避けなければならない。結局、副会長とのイベントは消化されちまったし、俺とのイベントが発生する可能性がないとは言いきれまい。
とりあえず今日は部屋で籠城戦だ。夕飯は……しかたない、コンビニ弁当で我慢するとしよう。
「……、会長聞いてないでしょ?」
「聞いてる聞いてる」
「いや絶対聞いてないでしょ!」
「聞いてるっての」
「じゃあ夜が怖いから一緒に寝てくれる?」
「へいへい、一緒に寝りゃい――」
あ? 今会計なんつった?