10:会長と転校生


「そんなことより! そういえば昨日の話まだしてもらってないですよね! 早く話してくださいよ!」
「……チッ、思い出しやがったか」
「いや、何言ってるんですか!?」

 そのために呼んだくせになにを舌打ちしてらっしゃるのか、この会長め。
 話題を切り換えようと俺がそう叫ぶように言えば、会長は笑みをすぐ引っ込めて不機嫌そうな顔を作る。

「……まあ別になんてことはねえんだがな」
「でもそこまで勿体ぶるような話なんですよね?」
「ただ俺が言いたくねえだけだ」

 とは言うが、会長をここまで渋らせるような話題だ。気になっても当然だと思う。

「てめえがその場にいたかは知らねえが、食堂で俺が高橋にキスしたっつう噂は知ってんだろ?」
「ええまあ。ていうか見てました、バッチリと」
「……そうか。ならあれが事故だったのは知ってんだろ。なんだが、アイツ――高橋の野郎はそれがファーストキスだったらしくてよ。それで……」
「まさか責任取れとでも言われたんですか?」
「まあな」

 こくりと頷いた会長にそういえばあの時ファーストキスがどうのとか叫んでたなと思い返す。
 それにしても責任って……一体どう取れと?

「あれは事故だからカウントすんなっつっても聞かねえし、事あるごとに「キスしたくせに」とか言ってきやがるしでホント対応に困る。俺が自分のセフレとなにしてようがてめえには関係ねえだろうがっての」

 「この前なんざわざわざ俺の部屋まで来て親衛隊を追い払いやがったし……てめえは俺のなんなんだ」とか口からどんどん愚痴をこぼしていく会長。
 その話を聞いて俺は首を捻る。

「あの……転校生ってノンケなんですよね? なんでそんな勘違い女みたいなことしちゃってるんですか?」

 これじゃあまるで、責任取って俺と付き合ってみたいなこと言ってるようなもんではないか。
 少し気になって疑問を口にしてみれば、会長は考えるようなそぶりを見せる。

「いや、たぶんノンケとかそれ以前の問題なんだろ。恋愛自体に耐性なさすぎ、もしくは恋愛に夢見すぎとかな。両方かもしんねえが。ファーストキスへの異常な執着といい、いつになってもキスすらまともに発音できねえところといい、流石におかしすぎだ。あれは相手が男だからとか、女だからとか、そういう次元の話ではねえな」
「へ、へえー……」
「とにかく高橋は、あんなにもあっさりとファーストキス奪ったくせに、気にも留めず他の野郎と遊んでる俺のことが気に食わねえだけなんだろうよ。自分が気にしまくってるからこそ余計に」

 そして重そうな息を吐き出し、「だからといって」と付け加えた。

「俺だってファーストキスと聞いた時は悪いと思ったし、一応謝罪はしてんだ。にもかかわらず、いつまでもぐちぐちぐちぐち言ってきやがるのはどうなんだよ。男なら潔く諦めろってんだ。大体、それを理由に俺の恋愛観にまで茶々入れていいわけねえだろ。なんであんな野郎に何度も邪魔されなきゃなんねえんだ」

 いや、誰かれ構わずって精神もどうかと思いますけど。
 でも今の不機嫌マックス会長にそんなこと言えるほどの勇気はないので、心の中だけに留めておくとしよう。
 ……それにしても大変だよな。
 以前昇から毎日セフレとにゃんにゃんしてるって聞いたことがある。そんな日々を送ってた人間が事あるごとに邪魔されてたら、きっといろんなモノが溜まるんだろう。

「――ああ。それで邪魔されそうにないここにいたわけですか」
「結局、てめえに邪魔されたがな」
「ハハハ……その節はホントすいませんでした」

 土下座する勢いで頭を下げれば「そこまで気にしてねえよ」と頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
 なんていい人なんだと感動しつつ、顔を上げれば再び嫌な笑みを浮かべた会長と目が合う。
 前言撤回。やっぱこの人ダメだ。

「なんたっててめえが代わりを務めりゃいいだけの話だからな」
「全力で遠慮させていただきます」
「案外ハマるかもしれねえぜ?」
「それはないと断言できます」
「そりゃあヤってみねえとわからねえだろ」
「わかります。だって今、現在進行形で鳥肌立ってますから」

 そうやってぐいぐいと腕を見せつけてやれば、またもや会長の笑いをゲットしてしまった。意味わからん。意外とツボが浅いんだろうか?
 爆笑する会長に今度はこっちが不機嫌全開になる。
 じとりと睨みつけ続けると、笑いがやっと治まったらしい会長が顔を上げる。

「あーやっぱてめえはいいわ。……ほら、携帯貸せよ。アドレス交換してやる」
「そんなのいりませんー」
「コラ拗ねんなよ。ほら貸せ。俺のアドレスとか超レアじゃねえか」
「だからいりませ――ちょ!?」

 勝手にスラックスに手え突っ込んだあげく奪いやがるとは何事か。

「ばっ、なにするんですか! マジいらないんで返してくださいよ!」
「いいじゃねえか、減るもんじゃねえし。――ほらよ」
「ああああ……俺の携帯があああああ……」

 会長のデータが入ってしまった可哀相な携帯を「ごめん助けてあげられなくて。無力な俺を許してくれ」とそっと胸に抱きしめる。

「おいコラてめえ、いい加減キレんぞ」
「キレたいのはこっちですよ!」
「うるせえ! 俺のデータが汚したみたいな言い方しやがってこの野郎!」
「実際そうじゃないですか! この万年発情期め! きゃー、不潔よー!」
「んだとコラ!?」

 そうやって会長とふざけあう中。
 いい加減お腹が空いてきた俺の腹の虫が場の空気を壊し、またもや会長に爆笑されるまで残り数分のことだった。



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