高橋となにかあったのか。
そう聞かれた時たしかに渋りはしたものの、それはただ話すのをためらっただけであって、これと言った何かが起きたわけではけしてなかった。
それもそうだろう。
この俺が高橋ごときに何度も邪魔されまくった挙げ句、溜まってイライラしてるだなんて口が裂けても言えるわけがない。格好悪いを通り越してただのバカだろうが。話してなんかみろ、俺の威厳は粉砕間違いなしだ。
とはいえ、相手はすでに恥ずかしい場面を目撃されてるようなヤツである。今更威厳だなんだというだけ無駄であろう。有って無いようなもんだ。
誰かに話すことによってこの苛立ちも多少は治まるだろうし、それにコイツとはもう少し話してみてえと思った。
翌日の昼休みに再びここに来ることを約束した後は、走り去る大久保を横目に戻り芝生の上へ横になる。
連絡先くらい聞いときゃよかったかとは思ったが、それは明日にすればいいと、そのままひと眠りすることに決めた俺だった。
− − − − −
――そして翌日。
約束通り昼休み大久保と会った後は真面目に授業を受け、放課後には生徒会室へと向かった。
室内にはすでに世良が1人いたが、どうも不機嫌なようである。
原因は間違いなく高橋関連だろう。
とはいえ、俺には関係もねえし興味もねえことだ。
気にせず奥へと足を進めた俺は専用席の横にカバンを置き、今度はコーヒーを注ぎに向かった。
普段であれば副会長に注いで来いと催促するところだが、どうせ不機嫌なコイツに話しかけてもグチグチと文句言われるのがオチである。触らぬ神になんとやらと言うヤツだ。それに俺は今機嫌がよかった。
マグカップ片手に席へ戻る途中、背中に視線を感じ振り返ってみれば、訝しそうな目つきをした世良と目が合った。
「……なんか用かよ?」
「い、いえ」
いつまでもうっとうしい視線を向けられるのも癪なので声をかけてみたんだが、世良のヤツはどもりながらすぐ目線を逸らしやがった。珍しい。
まあ大方、俺自らコーヒーを注ぎに行ったことにでも驚いているんだろう。
そんなにガン見するほど珍しいかよと睨みつけてやりたくなったが、やめた。
いらんことをしても俺の機嫌を損なうだけだからな。
時々、前方から視線を感じることもあったが、気にせず作業を進めていく。
そして20分ほど経ったころだろうか? スラックスのポケットに突っ込んでいたスマホが震え、メールの受信を知らせてくる。
タイミングがあまりにも悪かったため、一体誰がなんの用だよと舌打ちしてしまったが、画面に映る名前を見た瞬間、眉間のしわがとれたどころか頬が思いっきり緩んでしまった。
「さっきから随分機嫌がいいようですけど……なにかあったんですか?」
その光景をちょうど目撃したらしい世良がまるで不審物を見るかのような目を向けてくるが、それにいちいち突っかかる程の余裕もなく、「なんでもねえよ、声掛けんな」と適当にあしらい再び画面に目を向ける。
差出人は大久保彼方。
内容は「明後日、予定がなければ俺の部屋でゲームでもしませんか?」といった感じのもの。
いわゆるお誘いメールと言うヤツだった。
(――やべえな、ニヤニヤが全然止まんねえ。)
一応手で口を覆ってはいるが、俺がニヤついていることは世良にバレバレだろう。
だがそんなことがどうでもよく感じるくらい、舞い上がっている自分がいる。
何故こんなメールが来たのか。
それはきっと昼休みの会話のせいに決まってる。
アイツとはくだらない話で盛り上がったりしたんだが、その中の1つにゲームの話があった。
俺は親から制限されていることもあり、昔からゲームなどの遊戯とは無縁の生活をしてきた。娯楽と言えば読書、音楽くらいだろうか。
とはいえ、俺もまだ高校生である。一度くらいそういったもので遊びたいと思っても仕方ねえじゃねえか。
その話をした時、「俺たくさん持ってるんで、今度一緒にゲームやりましょう!」と言われたわけだ。
そして届いたメール。……ダメだ。マジ嬉しすぎる。
たかが誘いメールごときでなに喜んでんだと自分でも思うが、嬉しいもんはうれしいんだから仕方ねえだろう。
「――まさか。康太から連絡でもあったわけじゃないでしょうね?」
「アホ抜かせ。俺はアイツの連絡先知らねえし、例え連絡来たところで喜ぶような相手じゃねえだろ」
「な……!?」
意味のわからねえ勘ぐりをしてくる世良を「てめえらと一緒にすんじゃねえよ」と睨みつけてやれば、顔を赤くして立ち上がる。どうやらキレたらしい。
だがそれ以上構ってやる気にはなれず、メールの作成の方に意識を向けた。
目の前でなんだかんだと叫ぶ声に適当に「ああ」とか「そうかよ」と相槌を打ちつつ、文字を打ち込んでいく。
そして何通かメールのやり取りをしているうちに静かになった生徒会室。
世良が消えたことすら気付かないほどメールに没頭していた俺は、そんなにもゲームがしたかったのか、それとも大久保のメールに喜びを感じていたのか、はたしてどちらだったのか謎である。