12:二人の戦い


 俺様で傲慢で人気があって、そして親衛隊をセフレのように扱う人物。
 たしかに勉強・スポーツに仕事でもなんでも完璧にこなす様は感心するけど、ノンケの昇が親衛隊に入るほど尊敬できるような人間じゃないよな、なんて今までは思っていた。
 でも実際はドジっ子属性で、(ひっじょーにわかりにくいが)冗談も口にするお茶目な一面?もあって。たしかに俺様だけど常識はあるし、自分が悪いと思ったら素直に謝罪してくれる、そんな人だった。今なら彼を慕う気持ちもわからないでもない。

 ――生徒会長、蓮見彰吾。

 同じ学園で生活しているとはいえ、話すことは絶対にないだろうと思っていた雲の上のような人。
 まさかそんな人物と(この学園では)一般人の俺がこんな関係になっているだなんて、一体誰が想像できるだろうか? 俺でさえこうなるとは思わなかったのにだ。


− − − − −



「……会長、」

 こぼれ落ちた声は思いの外小さく、囁く程度のものでしかなかった。
 それでも目の前の人物には無事届いてくれたようで、両肩をぴくりと震わせた。
 だがそれ以上の反応は返ってこない。ゆっくりとただ静かな時が流れるばかりである。
 しびれを切らした俺はもう一度言葉をかける。

「会長――」

 そして、その一挙一動を見逃さないようにじっくりと見つめながらこう繋げた。

「いい加減、自分が負けそうになったところでゲーム本体の電源切るのやめてくれません?」

 と。

「ていうか、いい加減負けを認めてくださいよ! 何度やっても俺の勝ちですから! 負けて悔しいのはわかりますけど、ゲーム好きとしてこんなこと言いたくないですけど! たかがゲームでこんなムキにならなくても」
「バ、バカ言ってんじゃねえよ! この俺がゲームごときでムキになるわけねえだろ! つうか負けてねえし!!」
「いや、どう考えても会長の負けですから! そうやって反論するところをムキになってるっていうんですからね!?」

 というかゲームが壊れるからマジでそういう行動に出るのやめてほしい。ゲームってそんな安くないんですって。
 「てめえが負けを認めねえだけだろ」と、ふいって顔を背ける会長はまるで拗ねた子供のようだ。そんな姿を見ていて思う。やっぱこの人を尊敬する昇の気持ちが理解できないと。
 まあそんなこと言ってる俺も、何度ゲームを消されようが会長が負けを認めるまで続けようとしてる辺り、会長と何一つ変わらないのだが。でもやっぱり俺の勝ちは確実だし、その辺は棚にでも上げさせてもらおう。

「別にゲームで負けるくらいいいじゃないですか。しかも何度もプレイしてる俺と違って会長は初めてですし。ここで俺が負ける方が普通おかしいんですよ?」
「……だとしても、俺は負けちゃいねえ」
「はあ……」

 諭すように言葉をかけてみるも聞く耳持たず。本気で拗ねた子供を相手にしている気分になってきたのは俺だけだろうか?
 気持ちはものすごーくわかるけど、そこまで頑なに負けを認めないのは何故。今まで負けたことがないからとか? ……なんだその羨ましい理由。

 とにかくだ。
 今更すぎるかもしれないが、このまま会長と対戦し続けても無駄なような気がしてきた。最初は会長が負けを認めるまでやり続けてやろうと思ったけど、この調子じゃ俺が負けるまで終わらなそうである。
 かといってわざと負けてやるなんてこと俺のプライドが許さない。それに、相当な負けず嫌いである会長もそんな勝ち方認めるはずがないだろう。
 仕方ない、ここは格ゲー以外のゲームを勧めてみるしかないか。

「じゃあこうしません? 勝敗はまた次の機会に持ち越しってことにして、今は他のゲームしましょうよ。会長だって格ゲー以外のゲームに興味あるんじゃないですか?」

 テレビゲームから携帯ゲームまで。無造作に詰められた箱の中身を見せつけるようにほれほれと揺らせば、見事釣られてくれた会長は眉をピクリと動かす。そして「不本意ではあるが、そこまで言うなら仕方ねえな」みたいな表情を浮かべた。
 よし、誘導作戦成功。

「……チッ、なら次は俺に選ばせろ」
「もちろんいいですよ! RPGでもなんでもどうぞ!」

 内心ガッツポーズをしながら、満面の笑みで箱ごと会長に手渡す。
 受け取った会長も心なしか嬉しそうで、箱から適当にソフトを取り出しては仕舞ってを繰り返している。
 そんな会長を横目に俺は先程の二の舞にならないようにと頭を働かせた。
 一番電源をぷっつんされそうな格闘系は全部抜いてしまったし、対戦アクション系も結構あるが、それは協力プレイをすればいいだけだし、心配はない……と思う。
 会長がなにを選んでも安心してプレイできるようにゲームごとの対処法を悶々と考えていれば、その間に会長が選び終えたらしい。
 会長は「これやるぞ」と、手に持っていたソフトを俺に向かって投げてくる。
 一方俺はもっと丁寧に扱ってくれませんかねなんて心のうちで悪態をつきながら、少しばかりドキドキしながらソフトに目を向け――


「これ……やるんですか?」


 そこに描かれている可愛らしい女の子たちのイラストを見て、思わず目を丸くするのだった。



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