目を覚ませば知らない天井が――なんてことはなかったが、何故ここに俺はいるんだと考える。
俺はたしか寮へ帰る途中だったはずだが、1階の階段を降り切る途中から記憶がないため、もしかしたら倒れて誰かに運ばれたのかもしれない。
実際、俺はベッドの横に座る男に助けられたようだった。
ソイツはどこか見覚えのある顔をしていたんだが、どこにでもいそうな平凡面だったため、なんとなくそう感じるだけだろうと勝手に自己完結する。
そんなことよりも礼だ礼。
しかし、いざ開いた口から出てきたのは「誰だてめえ」やら「なにもしてねえだろうな」やら、そんな言葉ばかり。
保健室まで運んだ上、わざわざ俺が目を覚ますまで待機していたような人物だ。
そんなヤツがなにか仕出かすとも思わねえし、それがどんなヤツだろうが構わなかったんだが。
一体何を口走ってんだろうか俺は。
ひきつったソイツの顔を見ながらああ、しくったと1人後悔する。
たしかに俺は今無性にイライラしているわけだが、その原因はこんな状況を作りやがった世良――副会長、世良優斗(せらゆうと)のことだ――のヤツ等であって、コイツはまったくの無関係。当たっていいわけがない。
俺としたことが、と思いつつ、ため息を1つつく。
「いや、なんでもねえ。悪かったな。聞かなかったことにしてくれ」
「あーいえ。別に構いませんので」
「そうか。でも悪かった」
「いやいや、ホント気にしないでください。疲れてるんでしょう?」
「……まあな、」
しかも後輩であるコイツにさらに気まで使わせてしまうとはなんたることだ。
余計自分のことが嫌になり、眉間にしわを寄せる。
「そ、そんなことより会長、体の方は大丈夫ですか? ラスト2段だったとはいえ階段から落ちたんですし……保健医連れてくればよかったんでしょうけど、なんとなく気が引けたんで止めてしまったんですが」
「別にどこも痛くはねえし大丈夫だ。というか、助かった。ここはどうせ第1の方だろ? アイツがきたら俺が掘られてたかもしんねえしな……」
「ですよねえ……」
俺と同じく黄昏るように賛同するソイツに「ああ」とだけ告げる。
そう、ここの保健医はそういうヤツなのだ。オネエのくせに自分よりでかいヤツを押し倒すのが大好きという、勘弁願いたい性格をしていたりする。
そのため顔も良く身長もかなりあり、さらにバリタチである俺なんかアイツにとってはいい獲物だろう。想像するだけで寒気がするぜまったく。
アイツが来る前に起きることができて本当に良かったと思う。
「――さて。このまま長居してアイツと出くわすのだけは避けてえし、そろそろ帰るか」
「はい、そうですね」
後輩が立ち上がったのを確認すると俺もベッドから降りる。
鞄を受け取り保健室を出ようとするが、後ろから後輩がついて来ないことに気が付き振り返った。
「どうして動かねえんだてめえは?」
「あ、いえ。一緒に帰るところを誰かに見られるのもマズイかなと思いまして……」
「ああ、なるほどな」
たしかにコイツの言ってることはもっともである。
まあ俺がどうこうされることはないんだが、悪くもないが見目良くもないコイツが周りから何を言われるかわかったもんじゃないだろう。ただでさえ高橋のことで周りはピリピリしてるんだ。今はなおよろしくない。
苦笑いする後輩に頷き、それならばと口を開く。
「なら悪いが先に帰らせてもらう。まだやることが残ってるんでな」
「はい。はなからそのつもりなんでどうぞ」
「悪いな助かる。今日はなんつうか、色々ありがとうな。それじゃ」
「――へ? あ、ああ、はい。それじゃ気を付けてくださ――」
べしゃ。
「「…………」」
ここで颯爽とこの場を去ることができれば俺は好印象で終わったに違いない。
なぜこうも俺は妙なところでやらかすのか。呪いにでもかかってるんだろうか?
気まずい雰囲気の中、無言で立ち上がった俺の後ろから声が1つかかった。
「ええっと……ホント足元にはくれぐれも気を付けてくださいね……?」
「……、ああ」
その背中に刺さる憐れむような視線とよくよく考えれば聞き覚えのある声に、ふととある人物を思い出す。
――わかった。
コイツは2度も俺がコケたのを目撃した野郎じゃねえか。
思い出したくなかった事実に顔周辺がやたらと熱をもった気がしたが、気のせいということにして、俺はほんの少しだけ歩くペースを上げその場を去ることに決めた。