08:お話ししてみた


「萎えた。てめえは帰れ」
「え、蓮見様!? 僕まだなにもされてな」
「いいから帰れつってんだろ」
「……っぅ!!」

 なんて会話が頭上で行われていたが、顔が見られないように丸くなっていた俺にはその様子を知ることはできなかった。
 ただ会長じゃない方の生徒が立ち去る途中、ものすごい殺気を背中に感じたのでたぶん、あまりよろしい状況ではなかったんだろう。本当に彼には申し訳ないことをしたと思う。ちょっぴり反省した。

「おい、行ったぞ」

 そして会長に肩を軽く叩かれた俺は汚れた部分をはたきつつ、ゆっくりとその場に立ちあがる。

「――で。どうしててめえはここにいるんだ?」
「や、あの。別に覗きたくて覗いたわけじゃなく……まあたしかにここに来たのは自分の意志なんですけどね?」
「どっちなんだよ」
「じゃあ覗いてないってことでひとつ……」
「じゃあってなんだ、じゃあって」

 実は俺、これでもまだパニくってるんで、その辺は気にしないでもらいたいんだけど……そんなこといったところで無駄だろう。
 とりあえず、どうして俺がいるのかカクカクシカジカと説明すれば、しっぶい顔した会長と目が合った。

「なんつうか、てめえ……本当は俺の親衛隊かなんかじゃねえのか?」
「なっ、そんなわけないじゃないですか!?」
「の割には会いすぎだろうが。……つうか悉(ことごと)くタイミングが悪すぎる」
「そ、そりゃあ俺もそうだとは思いますけど……」

 俺だって会長ほどじゃないが、毎回毎回気まずい状況に居合わせてしまうのは気分悪いし願い下げだ。
 まあたしかに、会長が保健室行きになった時は俺でよかったなとは思ったけど、それはまた別の話であるわけで。

「とにかく俺はそういうタイミング見計らって現れてるわけじゃないですからね! 俺にはそんな趣味ございませんし、大体、会長に興味なんてこれっぽっちもありませんし! すべてまったくの偶然です!」

 だからそうやって疑いの目を向けてくるのは止めてください! はっきり言って心外です!
 みたいなことを叫びながら告げれば、視線は逸らしてくれたが、今度は額に手を当てため息をつかれてしまった。
 その姿に俺はなんか変なことでも言ってしまっただろうかと首を捻る。

「……てめえ、本人に向かってよくもまあ、そんな口が叩けるな」
「? 俺なんか口滑らしました?」
「めちゃくちゃな。興味ねえとかなんとか……まあ、無くて一向に構わねえんだが、こう直に言われると、な……」
「??」
「まあいい、気にするな」

 声が小さかったため何を言ってるのか正直よくわからなかったが、会長がそういうならば気にしないでおこうと「わかりました」と返答する。

「それにしても会長。会長は転校生のことどう思ってるんですか?」
「高橋のことか? そんなことてめえが聞いてどうすんだ?」

 意味がわからんという視線を寄こしてくる会長。
 俺は「他意はないんですけど」と前置きし、苦笑しながらこう告げた。

「だって転校生、イケメンホイホイじゃないですか。前に食堂で見かけた時、あの副会長なんてデレデレしてましたし。それに友人からさらに取り巻きの人数増やしたって聞きましたよ? しかもやっぱりイケメンを。でもって会長は人気投票1位のイケメン筆頭。副会長とかと仲良いなら会長と接触する機会も必然的に増えるし、会長攻略は間違いないだろうと思ってたんですけど……その割に転校生との話は聞かないですし。なんでかなあと思いまして」

 あんだけ簡単に落ちていく他のイケメン達の方が違和感あるが、逆にイケメン筆頭である会長にそういった話が出てこないのも不思議である。
 俺たちが知らないだけで影でなにかあるんだろうか。
 それとも本当にあの食堂事件以外、なにも起きてないのか。
 傍観者としては少し興味があった。

「他人事だと思いやがって……」
「まあ、実際に他人事ですから」
「おいコラ堂々と認めんな」
「ってことは転校生となにかあったんですか?」
「……まあな、」

 本日何度目かのため息をついた会長は、少し考えるそぶりを見せ口を開く。

「別になんとも思ってねえよ、アイツのことなんざ。世良のヤツ等があそこまで構いたくなる理由もわからなくもねえんだが、俺自身はああいう面倒臭えタイプは好きじゃねえな。とはいえ悪い奴とも思ってねえ、そんな感じだ」
「で、なにがあったんですか?」
「俺が話題避けたのわかってて聞いてんなてめえは?」

 俺は返事をしない代わりに満面の笑みを浮かべた。

「あだっ! ――ちょっ、殴らなくたっていいじゃないですか!?」
「うるせえ! てめえがムカつく顔してたからだろうが!!」
「そんな酷い!?」

 ジンジンと痛むつむじ付近を手で押さえながら涙を堪える。
 まあたしかに今の流れは俺が悪かったとは思うが、それでも殴る必要はないと思うんだ。
 2人して睨みあっていたが、校舎の方から聞こえてくる予鈴にはっと表情を崩した。
 ――やばい。たしか5限の授業はあのホスト教師だったはずだ。早く戻らないとなにを言われるかわかったもんじゃない。

「それじゃあ俺、教室に戻りますんで」
「ああ、帰れ。さっさと帰っちまえ」
「ちょっと、なんですかその犬を追い払うみたいな言い方!?」
「うるせえな、いいから行けっつってんだろ。遅刻すんだろうが」
「そりゃそうですけどね!」

 でもこう、もっとなんか別の言い方とかないんですかねと言いたい。しっしっ、とかそんな効果音がつきそうな言い方ではなく。
 ま、今はそんなこと気にしてる場合じゃないか。
 「もういいです!」と叫びながら走る体勢を取るが、後ろから制止の声が上がる。

「そういやてめえの名前、聞いてなかったな。言え」
「だからなんでそんな命令形……まあ言いますけどね。大久保彼方ですよ」
「ふん……大久保彼方、か」

 なにかを確かめるようにそうリピートした会長は、ニヤリというそれはそれは嫌な笑みを浮かべつつこう言い放った。

「明日、またここに来い。そしたら話してやるよ」




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