Report 1-3

飛行機は無事離陸し、現在は機内でのんびりしている。
天候も良好で、特に何事も無く飛んでいる。
博士と隣同士になって私は窓側の席で、博士は通路側の席。
 
しかし、機内で半日ともなると実に暇である。
自分の座席の前にあるパネルで映画や飛行機に取り付けられているカメラの映像を見たり出来るのらしい。
最初は大はしゃぎでイッシュ地方で撮影されたポケウッドの映画を数本見たが、興味あるものは全部見てしまった。
だが、それで三時間しか時間を潰せなかった。
到着まで時間はまだまだあるというのに……。

映画を見ている間は忘れていたが、ずっと同じ姿勢でいたせいか身体が痛い。
いわゆるエコノミークラス症候群。
たまに足に力を入れたり、足首を曲げたりなどすると少しは楽になるが、それはほんの一瞬で数分もすれば元に戻る。
 
博士はというと分厚い本を読んでいる。
荷造りの段階でも見たが、ポケモンの参考書らしい。
ちらちらとポケモンの挿絵が見える、カロス地方で見かけたポケモンらしき絵もある。
 
私の視線に気づいたのか、博士はこちらを向く。
 
「ナマエ、映画には飽きたのかな?」
 
「興味あるものは全部見てしまいました」
 
「『トレーナーとポケモン その愛』も見たのかな?」
 
「はい」
 
確か収録されている映画一覧を見ている時に、博士からお勧めされた作品。
とあるトレーナーとポケモンによる恋愛映画だった。
やっぱり博士も恋愛映画も好きなのかな、と少し胸がドキドキする。
もしかしたら彼の恋愛価値観が聞けるかもしれない、と期待するも博士にとっては恋愛模様よりも、ポケモンバトルの描かれ方が好きらしい。
 
「あのベロリンガの腹太鼓は凄く力強いし、二作目のドーブルの逆鱗は…」
 
人間ドラマより、ポケモンバトルについて語る博士。
博士らしいといえば博士らしいけど…少しは人間ドラマの点も注目して欲しいな、と苦笑いする。
 
「あとは【大怪獣】のあのメカバンギラスの迫力もなかなか凄かったね!」
 
と思ったら次はメカ。
プラターヌ博士も一応博士だし、メカに惹かれるのも仕方ないだろうか。
 
博士と映画の感想を少し語り、話すことを話した所で博士の膝の上に置かれているポケモンの参考書に目をやる。
よく見るとカントー地方の歴史と、ポケモンの生態についての本だった。
 
「ああ、ちょっとした予習だよ。でも、実際に見てみるのと本で読むのとでは全然違うからね。楽しみだよ」
 
私の視線の先に気づいた博士は、分厚い本の招待を教えてくれた。
視線を膝の上の本に落とすと、手のひらで数枚ページを捲る。
 
「ボクが見てみたいって言っていたポケモンも載っているんだ」
 
博士が指差した先には、壁画の写真があった。
これでは何のポケモンかわからない。
 
「これはねー、幻のポケモンミュウの壁画だよ」
 
「ミュウ…ですか」
 
「そう。全てのポケモンの先祖とも言われているポケモンとも言われているんだ」
 
何でも、ミュウは知能が高いポケモンで遺伝子には全てのポケモンの情報が含まれていて、どんな技でも覚えるらしい。
そのあらゆる技を覚える点からミュウはポケモンの先祖なのではないかとも考えられているらしい。
 
「本当は絶滅したはずのポケモンなんだけど、十数年前に前に南アメリカで遠征に行っていたカントー地方の研究者がミュウを発見したんだ。そこから学会でミュウの生存説が唱えられてきたけど…」
 
ミュウには自由自在に姿を消すことが出来る上、どんなポケモンにも変身することが出来るらしいので観測するのもかなり難しい。
実際に見た者は数少なく存在したが、証拠に欠けるとのことでただの空想という話で終わった。
 
「だけどね、カントー地方でミュウを見たという情報がまた流れたんだ。それが仮に空想であったとしてもボクはその地へ行って自分の手で確かめたいんだ。ミュウは存在するってね」
 
パタン、と本を閉じると私に手渡してきた。
パラパラと簡単にページを捲っていくカントーのポケモンほと殆どが写真付きで載っている。
けど、ミュウだけが壁画なのは恐らく誰もその姿を収めていないからだろう。
イラストもあったが、これは想像図らしくて正しいとは限らないと言われた。
 
「確率はほぼゼロだけど、もし発見したら痛快だよね」
 
「そうですね、きっと学会で名を知らしめる事になりますね!」
 
「そしたらボク達は有名人だねー」
 
あはは、と朗らかに笑う博士はとても楽しそう。
伝染したかのように私もつられて笑顔になる。
 
幻のポケモンのミュウ…。
一体どんなポケモンなのだろうか。
まだ見たことのない伝説のポケモンに私は期待で胸を膨らませた。
 

***

 
それからは私は本に読みふけってしまい、気づいたら機内では就寝の時間をとっくに迎えていた。
機内は薄暗く、窓の外から漏れてくる薄暗い光が妙に心地よかった。
博士はというと少し前に寝ることを伝えると、座席に付属していたアイマスクをつけると静かに寝息をたてて眠ってしまった。
 
本を読んでいる時はあんなに目が覚めていたのに、集中力が切れると一気に瞼が重くなった。
私も早く寝なければカントーに着いた時に思うように活動できないと判断し、椅子にもたれかかる。
しかしエコノミークラス症候群が相変わらず続いていて、足が悲鳴を上げている。
博士の方を向いてみたり、足を前の人の迷惑にならない程度にピーンと伸ばしたりする。
足首を伸ばしたり太ももを軽くマッサージすると、ほんの少しはマシになった気がした。
 
一度博士の方を向いたが、窓側を向いて寝ることにした。
博士の方を向いて寝るのは少し恥ずかしいからだ。
行儀が悪いけど身体を伸ばすようにして椅子にもたれかかる。
 
流し目気味で窓の外をしばらく眺める。
雲より高い位置にいる。
飛行機の下は雲のじゅうたんで覆われている。
綺麗な景色を楽しんでいると、ふと妙な物が見えた。
空中を飛んでいる何か…それが何かはわからない。
飛行機より少し遠い位置にいるのか、小さくてよく見えない。
ただ、それはおそらく何か白いものだという事はなんとかわかった。
進行先もこの飛行機と同じに思われた。
 
きっとこれも別な地方から来た飛行機だろうと考えると、私はアイマスクを付ける。
真っ暗な視界が少し心地よく、気が付くと私は静かに眠りに入っていた。