「よく似合っているわ。」

「ありがとうございます、マルフォイ夫人」


鏡に映る自分の姿がまるで別人に見える。
ライラックのような色合いのベルラインのドレスに身を包み、いつも下ろしっぱなしの髪は綺麗に編み込みされている。ネックレスとイヤリングはセットのようで、どんな宝石なのか見てもわからない。(でも絶対高い!)


「ルシウスを呼んでくるから、少し待っていて頂戴ね」

「はい。」


自分がお姫様にでもなったかのような錯覚に陥りながら、夢見心地で椅子へと座る。
魔法省主催のクリスマスパーティーへ行くことになるとは、去年の私なら思いもしないだろう。


「失礼するよ、アリア」

「はい、大丈夫です。」


入ってきたルシウス先輩もセブルスも、私を見つめたまま動かない。


「その、どこか…変ですか?」

「…いや、とても美しい。思わず見惚れてしまったよ。」

「お上手ですね。……あの、本当に良かったんでしょうか」


ドレス一式を用意してくれただけでは飽き足らず。クリスマスパーティーにまで同行することをマルフォイ夫妻は快く了承してくれた。
半純潔である私たちにここまでしてくれるなんて、一体どんな理由があるというのか。


「セブルスもアリアも、必ずや我が家の力になってくれると信じているよ」


去年プレゼントされた髪飾りの辺りを撫でつけると、意味深な笑みを残して婚約者であるナルシッサを迎えにいなくなってしまった。


「随分と化けたな。」

「失礼ね。セブルスも、いつもと雰囲気が違ってかっこいいよ。」

「こういうのは得意じゃないんだが…」


差し出された手に右手を重ね、立ち上がる。セブルスにエスコートされるなんて、何だか照れくさい。


「アリアも、よく似合っている」


こんな時間が、ずっと続けばいいのに。







豪華絢爛。パーティーは、まさにその一言に尽きる。が、会場の片隅でぽつんと壁に背を預ける私は、確実に浮いていることだろう。

セブルスはルシウス先輩に連れられ、怪しい人達の元を回っている。すぐ終わるから、と私は置き去りにされてしまった。
死喰い人関連だということはなんとなく想像はつくが、どうして私も連れて行ってもらえないのか。信用に値していないということか。若干不貞腐れた子供のような思考になってきているのは承知だけれど、こんな場所で一人きりにされるなんて寂しすぎる。


「…シリウス・ブラック」


純血貴族の御子息らしく、きっちりと正装を着こなす彼はなるほど、かっこいいと騒がれるだけある。いつもは小憎らしい笑みを浮かべ呪文を放ってくる姿しか知らない為、新鮮な光景だった。彼も父親であろう男性に連れられ、挨拶回りに追われているようだった。
気づかれても面倒くさいので、ルシウス先輩の言いつけを破りその場を離れる。あとで怒られそう。


「アリア、」

「え、」


ぐっと手首を掴まれ引き止められた先には、ジェームズ・ポッターがいた。いつもくしゃくしゃになっている髪はワックスでまとめられ、良家のお坊ちゃまと呼ぶに相応しい見た目をしている。


「どうして君がここに?」

「あなたには関係ない。」

「ルシウス・マルフォイとスニベルスの姿を見かけたからもしかして、と思ったけど…」

「……」

「ここに来るということが、どういう意味を持つかわかっているのかい?」


掴まれた手首に力が籠められ、痛みに表情が歪む。気づいた彼が謝り力を緩めるけれど、離す気はないようだった。どこか必死な様子に疑問が募る。


「関係ないと言ったでしょう。手を放しなさい、ポッター。」

「スニベルスと君は違う。どれだけ奴の背中を追っても、君自身が闇を拒んでいることは知ってるよ。なのに、」

「知ってる?一体なにを。わかったような口を利かないで!」


声を荒げてしまい、思わず周りを見渡す。私たちを不審に思う目はないようで、ほっと胸を撫で下ろした。


「…まるであなたが、私を心配しているかのようね?おかしな話だわ」

「なんだって?」

「今までしてきたことを、忘れたとは言わせない。…もう一度言う、手を放しなさい。」
「セブルスの為なら、私はなんだってするわ。闇に手を染めるのだって造作もないのよ。」


あなたに分かるはずもない。自分が一番で全て正しいと信じて疑わない、あなたのような人間に。


手を振り払い駆け込んだ化粧室で、掴まれた手首を洗い流す。真っ赤になるまで擦っても、感覚が消えない。


「酷い顔、」


鏡に映る私は、魔法が解けた灰被りだ。綺麗なドレスを着て、褒められて舞い上がっていた自分のなんと惨めで陰惨なことか。

全部全部、この水と共に排水溝へ流れてしまえばいいのに。






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